実用パーリ語文法

Charles Duroiselle

第三版 1997

(日本語訳)

目次

(括弧の中の数字は、段落番号です)

第一章 アルファベット

短い母音と長い母音 (2-5)文字の分類 (6-9)
発音 (10-11)結合子音 (12-13)

第二章 連声

始めに (14-16)母音連声 (17-27)
子音の挿入 (28)子音連声 (29-36)
ニッガヒータ連声 (37-46)文字の入れ替わり (47)
記号 (48-50)

第三章 同化

始めに (51-52)同化の種類 (53)
一般的な規則 (54-66)鼻音の同化 (67-69)
y の同化 (70-79)r の同化 (80-84)
s の同化 (85-95)h の同化 (96-102)

第四章 強調

第五章 名詞の曲用

語幹・語基 (116,b)性 (116,c,d)
格 (116,f)曲用の分類 (117)
一般的な格語尾 (118)母音曲用, a で終わる語幹 (119-121)
a で終わる男性名詞: deva (122)aで終わる中性名詞: rūpa (123-124)
ā で終わる名詞の曲用 (125)ā で終わる女性名詞: kaññā (126-127)
ā で終わる男性名詞: (128)i で終わる名詞の曲用 (129)
i で終わる男性名詞: kapi (130-131)i, ī で終わる女性名詞: ratti (132-133)
i で終わる中性名詞: vāri (134)ī で終わる名詞の曲用 (135)
ī で終わる男性名詞: daṇḍī (136-137)ī で終わる女性名詞: nadī (138-139)
u で終わる名詞の曲用 (140)u で終わる男性名詞: bhikkhu (141)
u で終わる女性名詞: dhenu (142-143)u で終わる中性名詞: cakkhu (144-145)
ū で終わる名詞の曲用 (146)ū で終わる男性名詞: sayambhū (147)
ū で終わる女性名詞: vadhū (148)二重母音幹 (149)
特殊な名詞: go, sakhā (150-151)子音曲用 (152)
attā (154)brahmā (155)
rājā (156)pumā (157)
s で終わる語幹: mano (159-160)āyu (161)
r で終わる語幹: satthā (163)mātā, pitā (164)
at, vat, mat で終わる語幹: bhavaṁ (166)arahaṁ (167)

第六章 女性語基の作り方

女性の接尾辞 (181)名詞の女性語基 (182-192)
形容詞の女性語基 (193-195)

第七章 形容詞

a で終わる形容詞 (197-201)i で終わる形容詞 (202-204)
ī で終わる形容詞 (205-210)u で終わる形容詞 (211-214)
ū で終わる形容詞 (215-218)子音幹の形容詞 (220-224)
mahā (226)dhīmā (228)
guṇavā (230) で終わる形容詞 (231-235)
否定形容詞 (236-237)比較級・最上級 (238-246)
不規則な形容詞 (247)

第八章 数詞

基数・序数一覧 (251)基数 (252-272)
序数 (273-278)数詞から派生する副詞 (279-287)

第九章 代名詞・代名詞的形容詞・代名詞の派生語

人称代名詞 (288-296)指示代名詞 (297-311)
関係代名詞 (312-314)疑問代名詞 (315-318)
不定代名詞 (319-327)その他の代名詞 (328-335)
代名詞の派生語 (336-352)代名詞的に曲用する形容詞 (353)

第十章 動詞

始めに (354-369)原始動詞 (369)
第一活用 (370-371)畳音の規則 (372)
第二活用 (373)第三活用 (374-375)
第四活用 (376)第五活用 (377)
第六活用 (378)第七活用 (379)
現在系統の活用 (381-403)不規則動詞 (404)
アオリスト (405-426)完了系統 (427-430)
未来系統 (431-438)現在分詞 (439-448)
未来分詞 (449)受動完了分詞 (450-464)
完了分詞-能動態 (465)未来受動分詞 (466-469)
動名詞 (470-472)不定詞 (473-477)
受動動詞 (481-490)使役動詞 (491-497)
名詞由来動詞 (498-502)願望動詞 (503-507)
強意動詞 (508-509)欠如動詞・特異な動詞 (510-513)
動詞接頭辞 (514-522)
動詞の完全な変化表: pacati (523), coreti (524-527)
語根に起きる変化の一覧 (528)

第十一章 不変化詞

派生的副詞 (531)格形副詞 (532)
純粋な副詞 (532)接頭辞 (533-537)
接続詞 (538)

第十二章 複合語

始めに (539-541)dvanda (542-544)
tappurisa (545)kammadhāraya (546)
同格の名詞 (547)digu (548)
副詞的派生語 (549)関係詞節的複合語 (550-551)
upapada 複合語 (552)不規則な複合語 (553)
複雑な複合語 (554)複合語の中での単語の変化 (555)
動詞的複合語 (556-557)

第十三章 派生

始めに (558-574)一次派生 (kita) (575-578)
二次派生 (taddhita) (579-581)kvi 接尾辞 (582-584)

第十四章 構文

kāraka (587)文の中の語順 (588)
冠詞 (589)一致 (590-592)
主格 (594)属格 (595)
与格 (597)対格 (598)
具格 (599)奪格 (600)
処格 (601)呼格 (602)
絶対属格・絶対処格 (603)形容詞の構文 (604)
代名詞の構文 (605-609)反復 (610)
動詞の構文 (611-618)分詞の構文 (619-622)
不変化詞の構文 (623)直接話法・間接話法 (624)
疑問文・否定文 (625)

第十五章 韻律論

始めに (626-627)韻脚 (628-629)
短い音節・長い音節 (630)韻律の種類 (631)
sama 類 (632)addhasama 類 (634)
visama 類 (635)vatta (636)
vatta の種類 (638)jāti (639-641)
vetāliya (642)

日本語訳について

このパーリ語教科書は Charles Duroiselle 氏の 古い教科書 Practical Grammar of the Pali Language を日本語訳したものです。 底本は Buddha Dharma Education Association Inc. による「第三版」です。これは第二版を現代の方が電子テキスト化し、 誤字脱字等を修正したものだそうです。底本にはその作業を行った方の 「第三版序」がついているのですが、それには著作権がありますので訳出しませんでした。 ですのでこの翻訳は「第二版序」から始まります。 訳者はこの翻訳を作るにあたり明らかな誤植をできるだけ正しました。 韻律論の校正は vuttodayaṁ に拠りました。

訳者はこの翻訳データ (この序文を含む) をパブリックドメイン (CC0) に置きます。 ご自由にお使いください。

訳者記す

第二版・序

この文法書が著わされたのは、学校や大学においてそれが喫緊に必要とされている時でした。 ですから三か月とちょっとという短い期間に構想され、書かれ、校正され、 出版されました。少し間違いが混入していたにも関わらず ――これは今回修正されました―― この本はヨーロッパにおいて、 著者の期待を、もし期待していたとすればですが、上回る贔屓を頂きました。 しかしインドにおいては、そのような好意的な反響はありませんでした。 インドの紳士たちによれば、この本の大きな欠点は二つありました。 まずこの本は、太古のヒンドゥーによる文法解説の体系にあまり忠実でありませんでした。 この偉大な体系は、全ての学者がすぐにわかることですが、 確かに非常に適切なものです。――実際、 最初のサンスクリット文法と、それをモデルにした最初のパーリ語文法が編まれた時代の、 その当時には、教授法として唯一の適切な体系でした。しかし時代が変われば 方法も変わるものです。 古いヒンドゥーの文法体系のメリットがいかに否定できないとしても、 もっと明快で、素早く、理性的な西洋の教え方に、それはうまく馴染むことが できないと思っているのは、私だけではありません。 ですが、常道から外れている事柄のうち、もっと許されないのは、 サンスクリットの語形に絶えず言及して、それと比較し、それから パーリの語形を導くということを、著者が必要と考えていなかったことでした。 こうして比較していく方法は、サンスクリットをすでに知っている人が パーリ語を学び始めようとするときには、確かに素晴らしく有用なことですが、 この本が対象としている学生の需要には、実用的な風には応えられません。 対象読者はサンスクリットのサの字も知らない若い学生ですし、 そのほとんどは、そのような勉強法をとろうとは少しも思わないからです。 さらに言えば、後々サンスクリットを学ぶ人には、二つの言語間の 密接な関係はおのずから明らかとなるでしょう。

(603) 節において、いわゆる「絶対主格」に言及しました。 これはラングーンで出版された Niruttidīpanī というパーリ語の 本で解説されています。M. Monier Williams もまた、 自身のサンスクリット文法書の序において、これに言及しています。

本職の文学の仕事をしなくてはならず、大変忙しくて、 私はこの第二版を出版することができませんでした。 代わりにラングーン大学の Maung Tin 教授が、とても親切なことに この面倒な仕事を引き受けてくれて、 全ての校正刷りを読んで直してくれました。 特にこの本のような性格の本の校正読みを経験したことのある人であれば、 私の古い学生が私のためにしてくれた仕事の大変さがわかるでしょう。 ですからここで彼に心から感謝させてください。

Chas. Duroiselle. 1915.
Mandalay にて

この文法書はラングーン大学の私の学生の仕事を手助けし、 パーリ語の勉強を容易にするために書かれました。 私の知る限り、サンスクリット語を少しも知らない学生の要求に沿う パーリ語文法書はありません。学生が Muller of Frankfurter and of Minayef のような、サンスクリット愛好家のために書かれた文法書に手を出すと、 手助けになるどころか混乱するだけです。それに、これらの文法書は 完全ではなく、名詞と動詞の屈折が載っているだけです。 現在出版されているものとして、James Gray 氏の文法書は、 同じ目的のために書かれていますが、長い間在庫切れです。 またその本には二つの難点があります。パーリ語が全てビルマ文字で 書かれていることと、学生が言語を完全にマスターするには初等的すぎることです。

私が思うに、ヨーロッパの本の中で、派生を系統的に、完全に扱ったのは、 初めてのことです。構文の章も、そんなに包括的ではありませんが (そうしようとすると、一巻を特別に割かなくてはいけません)、 新しい特徴です。過去に構文が扱われたのは一例だけ (パーリ語文法, H. H. Tilby, ラングーン・バプテスト大学, 1899) しかありませんし、 それもとても短くて、規則を説明するのに一つの例も挙げられていませんでした。

最も困難だったことの一つは、いくつかの語形 (主に同化と動詞) を、 サンスクリットの手を借りずに解説することです。 パーリ語をこのように解説すると、いくつかの場合において、 理解できないとは言わないものの、恣意的に見えるものがあるということが、 学者には理解できると思います。ですから、 サンスクリットを少しも知らない学生に向けて書くことが私の公言する目的ではありますが、 この本のあちこちにサンスクリット関係の解説を少しずつちりばめれば、 いくつかの語形がよりよく理解できるようになると思いました。 しかし、学生はそれらを読み飛ばして、与えられるままにパーリ語の語形を 受け入れても全く構いません。しかし二度目に読み返すときは、 それらも追うことをお勧めします。

規則の一つ一つは、jātaka やその他の本から採ってきた例を 豊富に使って解説しました。段落には番号を打ち、 規則を探す手助けになるように、必要なときにはいつも、 その番号を載せました。実際に読んでいる学生にとって、 その部分の文法を学ぶのがより容易になるようにです。

文法学的な新しい発見は期待しないでください。しかし学者たちも、 ヨーロッパのパーリ語文法書に一度も現れたことのない事柄を、 今出版されるこの本の中に、少しく見つけることができるでしょう。

次のネーティブなパーリ語文法書を参考にしました: saddanīti, mahārūpasiddhi, mahārūpasiddhi ṭikā, akhyātapadamālā, moggallāna, kacchāyana, gaḷon pyan

ヨーロッパで出版された、私の手に入る文法書もすべて利用しました。

Chas. Duroiselle.
Rangoon にて 1906年 12月 20日

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