168. 文法性について (116,d) で述べたことから理解できるように、 名詞の性は辞書を引いて覚える方がいいです。 しかしすでにお気づきかもしれませんが、 次のことが言えます。
169. 語幹が a で終わり、単数主格が o で終わる名詞は、 全て男性です。
語幹 | 男性-単数主格 |
---|---|
sīha ライオン | sīho |
assa 馬 | asso |
hattha 手 | hattho |
dāra 妻 | dāro |
170. 語幹が a で終わり、単数主格が aṁ で終わる名詞は、 全て中性です。
語幹 | 中性-単数主格 |
---|---|
citta 精神 | cittaṁ |
rūpa 見ため | rūpaṁ |
bhatta 食事 | bhattaṁ |
hita 利益 | hitaṁ |
bhaya 恐怖 | bhayaṁ |
171. 語幹が ā で終わり、単数主格が ā で終わる名詞は、 全て女性です。
語幹 | 女性-単数主格 |
---|---|
vācā 語 | vācā |
nāvā 船 | nāvā |
sālā 公会堂 | sālā |
gāthā (詩の)連 | gāthā |
pūjā 崇拝 | pūjā |
注意: 語幹が ā で終わる男性名詞 (128) はとても少なく、 まれにしか見られません。すでに注意したように、ネーティブの文法学者は皆、 これを母音曲用に分類していますが、正しくは子音曲用に属します。 例えば、sā (犬) の本当の語幹は san (Sansk. śvan)、 mā (月) の本当の語幹は mas (Sansk. mās)、 gaṇḍīvadhanva (アルジュナ) の本当の語幹は gaṇḍīvadhanvan です。
172. 語幹が ī で終わり、単数主格も ī で終わる名詞は、 全て女性です。
語幹 | 女性-単数主格 |
---|---|
mahī 大地 | mahī |
sīhī 雌ライオン | sīhī |
bhisī 敷物 | bhisī |
rājinī 女王 | rājinī |
bhūmī 地面 | bhūmī |
173. 単数主格が ī で終わる男性名詞もいくつかあります。 一般的な規則として、この曲用型の男性名詞は、 名詞として使われている形容詞です。また、これは正しくは子音曲用で、 語幹は -in です。
174. ī で終わる中性名詞はありません。
175. 語幹が u で終わる名詞は、男性・女性・中性のいずれかです。 辞書で引いて覚えるのが最も得策です。
176. 語幹が ū で終わり、単数主格も ū で終わる純粋な名詞は、 全て女性です。
語幹 | 女性-単数主格 |
---|---|
camū 軍隊 | camū |
pādū 靴 | pādū |
sassū 義母 | sassū |
bhū 地面 | bhū |
vadhū 息子の妻 | vadhū |
注意: この曲用型は多くありません。
177. 語幹が ū で終わり、単数主格も ū で終わる男性名詞は、 正しくは純粋な名詞でなく、名詞として使われている形容詞です。
語幹 | 形容詞の名詞的用法 | 男性-単数主格 |
---|---|---|
abhibhū 打ち勝った | 君主、征服者 | abhibhū |
vedagū ベーダを知っている | 賢者 | vedagū |
maggaññū 道を知っている | 聖者 | maggaññū |
178. ū で終わる中性名詞はありません。
179. 上記の規則は、わずかではありますが、名詞の性を見分けるのに いくらか役立つでしょう。
180. 他の言語と同じように、男性名詞の語基・語幹に何らかの接尾辞が付いて たくさんの女性名詞が派生します。
181. パーリ語で、女性語基を作るために使われる接尾辞は:
182. 名詞の女性語基。
183. a で終わる男性語基から、ā, ī を使って女性語基が派生することが、 多くあります。
184. ā を使う例。
注意: ā を使って作る女性語基はそんなに多くありません。 また、その多くが ī, inī, ikā を使って作ることも可能です。
男性語基 | 女性語基 |
---|---|
mānusa 男 | mānusā 女 |
assa 雄馬 | assā 雌馬 |
kumbhakāra 陶工 | kumbhakārā 陶工の妻 |
kaṭapūtana 雄の悪霊 | kaṭapūtanā 雌の悪霊 |
vallabha 気に入られた男 | vallabhā 気に入られた女 |
185. ī を使う例。
注意: ī を使って男性語基から作る女性語基は非常に多いです。
男性語基 | 女性語基 |
---|---|
sīha 雄ライオン | sīhī 雌ライオン |
miga 雄鹿 | migī 雌鹿 |
kumāra 少年、王子 | kumārī 少女、姫 |
māṇava 若い男 | māṇavī 若い女 |
sāmaṇera 新人の沙門 | sāmaṇerī 新人の女沙門 |
186. 父の名を採った女性名も、ī で作ります。
男性語基 | 女性語基 |
---|---|
kacchāyana | kacchāyanī |
vāseṭṭha | vāseṭṭhī |
gotama | gotamī |
187. ka で終わる名詞 (ほとんどは名詞的に使われた形容詞) は、 ikā か ikinī で終わる女性形を作ります。
男性語基 | 女性語基 |
---|---|
nāvika 船乗り | nāvikā, nāvikinī |
paribbājaka 遊行者 | paribbājikā, paribbājikinī |
paṁsukūlika 糞掃衣を来た僧侶 | paṁsukūlikinī, paṁsukūlikā |
kumāraka 少年 | kumārikā |
188. inī を使う例。
男性語基 | 女性語基 |
---|---|
rājā 王 | rājinī 女王 |
kumbhakāra 陶工 | kumbhakārinī 陶工の妻 |
miga 雄鹿 | miginī 雌鹿 |
sīha 雄ライオン | sīhinī 雌ライオン |
yakkha 雄の鬼 | yakkhinī 雌の鬼 |
189. nī を使う例。
注意: 接尾辞 nī は、i, ī, u, ū で終わる男性語基に付けられます。 男性語基の ī, ū は、後ろに nī が付くと短くなります。
男性語基 | 女性語基 |
---|---|
bhikkhu 比丘 | bhikkhunī 比丘尼 |
bandhu 親類の男 | bandhunī 親類の女 |
paṭu 男の賢者 | paṭunī 女の賢者 |
dhammaññū 教義を知る男 | dhammaññunī 教義を知る女 |
daṇḍī 托鉢僧 | daṇḍinī 托鉢尼 |
brahmacārī 神聖な生活をする男 | brahmacārinī 神聖な生活をする女 |
hatthi 雄象 | hatthinī 雌象 |
190. ānī を使う例。
191. 接尾辞 ānī を使って女性形を作る名詞が少数あります。
男性語基 | 女性語基 |
---|---|
mātula 伯父 | mātulānī 伯母 |
vāruṇa ヴァルナ (神の名) | vāruṇānī |
khattiya クシャトリヤの男 | khattiyānī クシャトリヤの女 |
ācariya 男教師 | ācariyānī 女教師 |
gahapati 家主 | gahapatānī 家主の妻 |
注意: gahapati において、末尾の i は、後ろに ānī が付くと脱落することに注意してください。
192. 二つ以上の女性形を持つ名詞があります。
男性語基 | 女性語基 |
---|---|
atthakāma 善意の男 | atthakāmā, atthakāmī, atthakāminī |
kumbhakāra 陶工 | kumbhakārā, kumbhakārī, kumbhakārinī |
yakkha 鬼 | yakkhī, yakkhinī |
nāga 蛇、象 | nāgī, nāginī |
miga 鹿 | migī, miginī |
sīha ライオン | sīhī, sīhinī |
byaggha 虎 | byagghī, byagghinī |
kāka カラス | kākī, kākinī |
mānusa 男 | mānusā, mānusī, mānusinī |
193. 形容詞の女性語基を作るときに使われる接尾辞も、(181) に挙げたものと同じです。つまり:
194. 語幹が a で終わる形容詞の女性形は、-ā の形になることもあり、 -ī の形になることもあります。
195. i, ī, u, ū で終わる形容詞の女性形は、nī (189) を付加することで作ります。 末尾の ī, ū は、nī が付くと短くなります。
(例については、第七章「形容詞」をご覧ください)