第十三章

派生

558. 文法の中でとても大事なところにやってきました。 名詞、形容詞の作り方、またの名を派生と言います。

559. パーリ語では、ほぼすべての屈折語の語幹が、 語根という原初的な要素まで辿ることができます。

560. 語根とは、文法的にそれ以上分析できない原初的な言語要素です。 語根は抽象的な概念を表しています。ヨーロッパの言語では、 語根に含まれる概念を不定詞で説明することが一般的ですが (例: √gam 行く (英語)to go)、語根は不定詞ではありませんし、 そもそも動詞でも名詞でもありません。語根は単に、ぼやっとした、曖昧な概念を 表わす原初的な要素です。語根のこの曖昧な概念は、 接尾辞が付くことによって、発展していきます。 そうして、抽象的な、あるいは具体的な、様々な意味へと枝分かれします。

561. パーリ語の語根は、少し形が変化していますが、 訓練された目には、サンスクリットと共通であることが すぐにわかります。ですから、インド・ヨーロッパ語族の 語根とも多くが共通します。

562. 本物の語根は、全て単音節です: √nas (死ぬ)、√bhā (輝く)、 √ruh (育つ)、√pac (料理する)。 二音節以上の語根は、以下のようにしてできたものです: (a) 語根そのものに動詞接頭辞が付いて、一つの特定の概念を 表わすために、分離できなくなったもの。たとえば: √saṅgam 闘う (= sam + √gam 直訳: 来て一緒になる、近くに集まる)。 (b) 畳音の結果 (372-ff): √jāgar 目覚めている ← √gar (Sansk. gṛ) 起こす。

563. 派生は、二つに大別できます。

(i) kita (Sansk. kṛt) あるいは一次派生
(ii) taddhita あるいは二次派生

564. 一次派生語は、語根から直接作られます。 二次派生語は、一次派生語から作られます。

565. ネーティブの文法学者は、第三の派生、彼らの言葉では uṇādi (uṇ + ādi)、を 識別します。これは、少数の派生語を作る接尾辞 uṇ にちなんだ呼び名です。 しかし uṇādi 派生はとても恣意的で、名詞と語根の間のつながりが、 意味上も語形上もはっきりしません。uṇādi 派生語は、kita 派生に含まれます。 ですから、uṇādi の接尾辞は kita 接尾辞に含め、アステリスク (*) で 区別することにします。

566. というわけで、この章では、一次派生と二次派生を扱っていきます。 uṇādi 派生については、少しだけヒントを示すにとどめます。

567. 一次派生 (kita) でも二次派生 (taddhita) でも、接尾辞が 語根・名詞・形容詞に付くと、強調 (103) が頻繁に起こります。 つまり、a は長く ā となり、ieuo となることがあります。

568. 接尾辞が付いて強調が起きる場合、ネーティブの文法学者は、 そのことを示す印を接尾辞の前か後ろに置きます。この印は、 一般的には です。時々 r を使うこともあります。たとえば: √cur (盗む) + 接尾辞 ṇacora (盗人)。 この例では、本当の接尾辞は a です。 は単に、強調が起きなければいけないことを 示す印にすぎません。また別の例を挙げますと: √kar (する) + ṇakāra (する人) ⇔ √kar + 接尾辞 akara (する人)。この最後の例では、強調は起きませんから、 接尾辞に印が付いていません。この印を、文法学者は anubandha と呼びます。 ですから、anubandha つまり「強調を示す印」は、接尾辞の一部ではありません。

569. ヨーロッパの文法学者は、一般的に、anubandha を使いません。 ですがこの本では、小さい文字で括弧にいれて示します。たとえば、 ()a, kā()

570. また、ネーティブの文法学者は、いくつかの接尾辞を、 慣習的な記号で表します。たとえば、ṇvu は接尾辞 aka を 表わす記号です。yuanaṁ を表す記号です。このような慣習的な 記号は、本物の接尾辞の後ろに、括弧にいれて示すことにします。 例えば、anaṁ(yu) となっていれば、anaṁ が本物の接尾辞であって、 ネーティブの文法学者が anaṁ を表すのに使う慣習的な記号が yu で あることを意味します。

571. (514) で説明した接頭辞が強調を受ける場合もあるということを 頭に留めてください。たとえば: virajja + ka = virajjaka, paṭipada + ()a = pāṭipadā, vinaya + ()ika = venayika

572. いくつかの接尾辞 (一般的には、() が付いているもの) が後ろに付くと、語根の末尾の ck に、jg に変わります: √pac + ()a = pāka (料理), √ruj + ()a = roga (病気)。

573. 語幹の末尾の母音は、接尾辞が付くと脱落することがあります。

574. 連声と同化の規則は、規則通り適用されます。

(i) 一次派生 (kita)

575. すでに述べたように、一次派生語は、語根に直接、何らかの 接尾辞を付けて作ります。この接尾辞を kita 接尾辞と呼びます。

576. kita 接尾辞を以下に挙げていきます。参照しやすいように ローマ字順に並べます。

a (()a): この接尾辞は、きわめてたくさんの派生語を作ります。 強調が起きるものも、起きないものもあります。この接尾辞は、 以下のような名詞・形容詞を作ります:

(1) 行為: √pac (料理する) + a = pāka 料理という行為。 √caj (捨てる) + a = cāga 捨てること。 √bhaj (分ける) + a = bhāga 分けること。 √kam (愛する) + a = kāma 愛すること。

(2) 動作主: √car (歩き回る) + a = cāra, cara スパイ。 √har (取る、魅了する) + a = hara 魅了する者、シバ神の名。 √kar (する) + a = kara する物、手。 また、kāra する人。

(3) 行為を表す抽象名詞: √kar + a = kara 行為。 √kam (歩む) + a = kama 歩み、連続、順番。 √kamp (振る) + a = kampa 動揺、身震い。 √yuj (結ぶ) + a = yoga 連結。

(4) 形容詞を作ります: √kar + a = kāra している(人)、 kara 引き起こす(原因)。√car (歩き回る) + a = cāra, cara 歩き回る(人)。 √plu (泳ぐ、浮かぶ) + a = plava 泳いでいる、浮かんでいる。

語幹にどんな接頭辞が付いても構わないことは、 容易に理解できるでしょう:

sam + √gam + a = saṅgāma 集まり。 pa + √vis (入る) + a = pavesa 入口。 anu + √sar (行く) + a = anusāra 続くこと。

これと同じことは、他のどの接尾辞が付く場合にも言えます。

577. この接尾辞が付いてできる形容詞 (上記 4) から、upapada 複合語 (552) が作られます:

kammakāro = kammaṁ kāro (kammaṁ karotī'ti) 行為をする人。 kumbhakāro = kumbhaṁ kāro (kumbhaṁ karotī'ti) 壺を作る人、陶工。

578. 人の名前となる複合語も、upapada 複合語と性質がとてもよく似ています。 私たちの見方からすると、これは単に、純粋な upapada です。しかし kacchāyana には次のような規則が載っています: “saññāyaṁ a nu” つまり、 固有名詞を作るには、接尾辞 nu (= = 対格) を始めの要素に付けます。 それは、語根 (後ろの要素となります) の直接目的語になります。 そしてその後ろに、動作主を表す接尾辞 a を付けます。 例えば: arindama 敵を制圧した者 = ari (敵) + (nu) + √dam (制圧する) + avessantara バイシャへと渡った者 = vessa + (nu) + √tar (渡る) + ataṇhaṅkara 渇愛を作る者、ある仏陀の名 = taṇhā (渇愛) + (nu) + √kar + a

この例からわかるように、始めの要素は対格形で、後ろの要素 (接尾辞 a でできた動作主-名詞) に支配されています。

注意: a が付いてできる名詞は男性です。女性形は (183) の規則に従って作ります。 形容詞にも同じことが言えます (197)。

abha*: いくつかの動物の名前を作ります。 派生関係ははっきりしません。 kalabha, kaḷabha 若い象 (√kal 駆り立てる、鳴らす)。 usabha 雄牛 (√us (Sansk. ṛṣ) 行く、流れる、押す)。 sarabha 八本足の架空の鹿 (√sar (Sansk. śṛ) 傷つける、壊す、裂く)。 karabha ラクダ (√kar する)。

aka (ṇv): たくさんの動作-名詞・形容詞を作ります。 語根の母音は強調されます。 √kar (作る) + aka = kāraka 作っている、作る者。 √gah (取る、受け取る) + aka = gāhaka 受け取っている、受け取る者。 母音で終わる語根と aka の間には、y が挟まることもあります。 特に、長い ā で終わる語根で多いです: √ (与える) + aka = dāyaka 与える人。

注意: この派生語の女性形は、一般的に -kā, -ikā の形です。

ala*: 以下の語根から、少数の名詞を作る、と言われます。 本当に派生語かどうかは怪しいです: √paṭ (分離する、切り込む)、 √kus (積む、集める、切る)、√kal (駆り立てる、鳴らす、投げる)、など。 paṭala (覆い、膜、屋根)。 kusala (罪を切ることができるもの、善行)。 これらの名詞は中性です。

an: この接尾辞を使って派生する単語はほんの少しです。 √rāj (統べる) + an = rājan 王、支配者。

注意: -an で終わる名詞は、単数主格が です (156)。

ana (yu): この接尾辞は、膨大な数の派生名詞・形容詞を作ります。 名詞の場合は、中性か、 の形の女性です。 形容詞の場合は、三つの性を持ちます。強調は起こることも起きないこともあります。 ただし、形容詞のほうが強調が起きやすいです。 名詞は: √pac (料理する) + ana = pacanaṁ 料理すること。 √gah (取る) + ana = gahaṇaṁ 掴まえること、取ること。 √ṭhā (立つ) + ana = ṭhānaṁ 場所。 形容詞は: pa + √nud (押す、動かす) + ana = panudano 取り除く、霧消させる。 √ghus (鳴る) + ana = ghosano 鳴っている。 √kudh (怒る) + ana = kodhano 怒っている。 これらの形容詞の女性形は、 の形のことも の形のこともあります。 女性名詞: √sev (仕える) + ana = sevanā (または sevanaṁ) 奉仕、仕えること。 √kar (執行する) + ana = kāraṇā 拷問。

as: この接尾辞を使ってできる単語はさほど多くありませんが、 重要です。(160) ですでに解説しました。 強調は、時々起きます。曲用は (59) と同様です。 単数主格形は -o です。√vac (言う) + as = vacas (vaco) 話し、言葉。 √tij (尖る) + as = tejas (tejo) 鋭利さ、輝き。

āni*: まれにしか見られません。この接尾辞は、正しくは名詞でなく、 罵りの禁止命令を作ります。そのとき、禁止の不変化詞 a- (242,a) が 語根の前に付きます。行動を禁じられる人は、与格にします: agamāni = a + √gam + āni 行くな! 例えば: “paradesaṁ te agamāni” 「お前は他の場所に行くな」 “te idaṁ kammaṁ akarāni” (a + √kar + āni)

āvi = vi (tāvi): この接尾辞は、(231) で見たように、能動態の完了分詞を作ります。同様に:

āna (448), at, ant = nta (440): は、反射分詞、現在分詞を作ります。 ネーティブの文法学者は、これら三つの分詞を、kita 派生語に分類しています。 受動完了分詞もそうです。

dhu: ネーティブの文法学者はこの形を与えるのですが、正しくは adhu です。 この接尾辞が作る派生語はほんの少しです。また、これは thu = athu の別形にすぎません (下を見てください)。

i: この接尾辞によってできる派生語はたくさんあります。 男性名詞も、女性名詞も、中性名詞もあります。また、形容詞も少数あります。 名詞は、動作主-名詞か抽象名詞です。しかし、派生関係があまりはっきりしないものもあります (主に中性名詞)。ですから、文法学者によっては、この接尾辞を uṇādi に分類することがあります。 強調が起きる語根は少数あります。男性名詞: √ku (音を立てる、歌う) + i = kavi 歌う人、詩人。 √mun = man (考える) + i = muni 考える人 = 賢者。 女性名詞: √lip (塗りつける、こする) + i = lipi 擦り付けること、文字。 √ruc (輝く、喜ばしい) + i = ruci 光、喜び。 中性名詞: akkhi 目。aggi 火。aṭṭhi 骨。そのほか数語。 これらは派生語かどうか非常に怪しいです。 形容詞: √suc (光る、輝く、燃える) + i = suci 輝いている、澄んだ、純粋な。

この接尾辞が √dhā (運ぶ、つかむ) に付くと、派生語 dhi ができます。 これからたくさんの複合語ができます。多くの場合は男性です: sam + dhi = sandi 結合 (文法用語では「連声」)。 udadhi 海 (= uda 水 + dhi 湛える)。 他にも: nidhi 貯蔵所 (= ni + √dhā + i)。 paridhi 円、後光 (= pari + √dhā + i)。

同様に、√ (与える) と接頭辞 ā から ādi (ā + √ + i) 「…など」(直訳: 始まり) が得られます。この単語 ādi は、複合語の最後の要素としてよく使われます。

icca (ricca), iriya (ririya): これらは、kacchāyanakita 接尾辞として挙げていますが、本当は違います。 この両者は未来受動分詞 (466) の語尾であって、二例しかありません: kicca, kiriya 仕事 (直訳: されるべきこと): √kar + icca = kicca (語根の a, r が脱落), √kar + iriya = kiriya (語根の a, r が脱落)。しかし本当の派生*のしかたは、 kar + tya = kitya (ar が脱落して i が挿入) = kicca (通常の同化規則 (74)) です。

*Sansk. √kṛ + tya = kṛtya; kṛ + ya = kṛya = kriya

ika: これが使われるのは一例のみです: √gam (行く) → gamika (行く人)。

in = ī (ṇī): この接尾辞は、非常にたくさんの派生語を作ります。 その語幹は -in で終わり、単数主格は となります (137,173)。 この派生語は、正しくは所有形容詞で、時々名詞的に使われます。 強調は、起きるのが一般的です。√gah (取る、受け取る) + in = gāhin (gāhī) 取っている、受け取っている。√kar + in = kārin (kārī) している、 pāpakārī 悪をなす、罪人。 √ (行く) + in = yāyin (yāyī) 行っている、nagarayāyī (街に向かっている)。 √ (与える) + in = dāyin (dāyī) 与えている、与える者。 長い ā で終わる語根にこの接尾辞が付くときは、y が挟まれることに注意してください。 女性形は (189) の規則に従って作ります。

ina: 少数の派生語をつくります。強調は起きません: √sup (眠る) + ina = supinaṁ (中性「夢、眠り」)。 この接尾辞を使う名詞・形容詞のうちのいくつかは、 派生関係が明確でなく明らかでありません。ですからこの接尾辞は uṇādi にも 分類されます: √dakkh (できる、巧みな) + ina = dakkhiṇa (右の、南の、巧みな)

ira: この接尾辞からできる名詞・形容詞は少ししかないです。強調は起きません。 √ruc (輝く) + ira = rucira (輝いている、美しい)。 √vaj (強い) + ira = vajira (雷)

iya, iṭṭha: これらは、形容詞の比較形を作る接尾辞です (238)。

isa*: 少数の名詞を作ります。ほとんどは男性です。 派生関係ははっきりしません。√pūr (満たす) + isa = purisa 人。 √sun (虐げる) + isa = sunisa (迫害者)。 √il (振る、来る) + isa = ilisa (振る者)。 √mah (偉大だ) + isa = mahisa (強い者、水牛)

itta* (ṇitta): これは、大群を表す、と言われています (が疑問です)。 語根は強調されます: √vad (話す、演奏する) + itta = vādittaṁ 演奏者の大群、オーケストラ。 この接尾辞と派生語は、理解不能です。 ただし、-tta, -tra を見ていただくと、もっともらしい作られ方の説明があります。

īvara*: 少数の中性名詞を作りますが、語根と派生語のつながりは疑わしいです: √ci (集める、依存する) + īvara = cīvaraṁ 僧衣、積み重ねられるもの、依存されるもの。 √ (飲む) + īvara = pīvaraṁ 飲み物。

ka: 非常に少数の語根に付きます。強調が起きます。動作主-名詞・形容詞を作ります: √vad (話す) + ka = vādaka 話す人、演奏家、演奏している (形容詞)。 √dah (燃える) + ka = dāhaka 燃えている (形容詞)。 これら二つの語は、接尾辞 aka (上記) で派生するとしたほうが良いでしょう。 √sukh (Sansk. cus) + ka = sukkha (乾いた)。 √thu (Sansk. stu) (液体がしたたる) + ka = thoka わずか。 語根に ka が付くとき、連結母音 i, u が挟まれることも多いです。 その場合、接尾辞 ika, uka となります (それぞれの項目を見てください)。

la: 一般的に、連結母音 a, i を介します。 la は、ra の別形にすぎません (ra の項目を参照): √thu (厚い、強い) + la = thūla (厚い、太い)。 √cap (揺れる、震える) + (a +) la = capala 震えている、移り気の。 √ (守る) + la = pāla (守護者)。 √an (息をする、優しく吹く) + (i +) la = anila 風、そよ風。

lāṇa: これと yāṇa は一次接尾辞として挙げられていますが、 決して接尾辞ではありません。本物の接尾辞は āṇa です。 これは taddhita 接尾辞です (その項目を見てください)。

ma: いくつかの抽象名詞、動作主-名詞と、いくつかの形容詞を作ります: √bhī (恐れる) + ma = bhīma (恐ろしい)。 √ghar (Sansk. ghr) (温まる、赤熱する) + ma = gharma = ghamma (熱、温かさ) (r の同化 (80) に注意)。 √thu (褒める) + ma = thoma (称賛)。 √dhū (震える、行き来する) + ma = dhūma 煙。 パーリ語では、この接尾辞は次の接尾辞 man とほとんど混同されてしまいました。 ネーティブの文法学者は、この二つの接尾辞を選別する際、途方に暮れていることが 多いです。パーリ語では子音で終わる単語が許されないので、 -an で終わる語幹を、彼らが母音曲用に分類してしまったのが理由です (152,156-c,157-a)。

man: (kacchāyana では ramma という形も与えられています) この接尾辞は、動作名詞をつくります。男性もしくは中性です。 男性・中性のどちらでもある名詞も少数あります。語幹は -an で終わり、 主格は -ā, -o, -ṁ の形になります: √dhar (掴む、運ぶ) + man = dhammo, dhammaṁ 性質、特徴、責務、法。 √kar + man = kammaṁ 行為、業 (r が同化することに注意)。 √bhī (恐れる) + man = bhemo (恐ろしい)。 √khi (破壊する、終わらせる) + man = khemo 安穏な、平和な、 khemaṁ 安穏、幸福。 man を使って派生する派生語のほとんどは、先ほどの接尾辞 ma を使った派生語と 同じ曲用型に移行してしまいました。

māna: これは、すでに (447) 見たように、現在分詞-反射態の接尾辞です (上の āna を見てください)。

mi: この接尾辞からできる派生語は非常に少ないです。男性か女性です。 強調は起こりません。√bhū (存在する) + mi = bhūmi 地面、場所。 √u (sansk. v) (転がる、左右に行き来する) = ūmi 波 (Sansk. ūrmi, 語根の r が脱落)。

na: この接尾辞が、一定の数の受動完了分詞を作ることは、(458) で説明しました。 この接尾辞はまた、名詞を作ることが少数あります。語根に強調は起きませんが、 同化が起きるために、語根が識別できないこともあります。 √var (覆う、囲う) + na = vaṇṇa (80,83) 色、外見。 √sup (Sansk. svap) (眠る) + na = soppa (=Sansk. svapna) 眠り。 √phar (または phur = Sansk. sphur, sphr) (振る、ピクピクする) + na = paṇṇa 羽根、翼。 √tās (Sansk. trs) + na = taṇhā 渇愛。 √ji (勝つ) + na = jina 征服者。

接尾辞 ina, una (それぞれの項目を参照), tana (=Sansk. tna) は、この na と関連しています。 この接尾辞 tana からは、√ (授ける) + tna (= tana) = ratana (贈り物、祝福、宝石) という語ができます (語根の ā は、二重子音 tn の影響で短くなります (34))。

ni: この接尾辞を使ってできる名詞はほんの少しです。 女性: √ (やめる、捨てる) + ni = hāni 放棄、損失、崩壊。 √yu (結びつける、結合する) + ni = yoni 子宮、起源、存在の一形態。

nu: 少数の名詞を作ります。ほとんどは男性です。 抽象名詞と、具象名詞があります。 √bhā (輝く) + nu = bhānu 光線、光、太陽。 √dhe (飲む) + nu = dhenu 乳を出す、乳牛。

ta1: この接尾辞は、受動完了分詞の作り方 (450) のところですでに解説しました。 この接尾辞はまた、少数の具象名詞を作ります: √ (遠くに行く、離れたところに行く) + ta = dūta 使者。 √ (命令する、動かす) + ta = sūta (馬車の御者)。 これらの名詞も受動完了分詞によく似ているということに、気付かれるでしょう (452,注意)。 接尾辞 ita も、やはり受動完了分詞と関連があって (452,ii)、語根から 少数の派生語を作ります。が、これは疑わしいです: palita 灰色の。lohita 赤い。harita 緑色の。他。

ta2 (Sansk. tas): 少数の名詞を作ります。 √su (行く、過ぎる) + ta = sota 流れ。 √su (聞く) + ta = sota 耳。

(ritu, rātu) (Sansk. tr, tar): この接尾辞は、かなりたくさんの動作主-名詞を作ります。(162) をご覧ください。 この語幹は -u であって、主格は だということに注意してください。 √ ((食べ物などを) 測る) + = mātā 母。 √vad (話す) + = vattā 話者。

ti: この接尾辞は、非常にたくさんの動作名詞 (女性) と動作主-名詞を作ります。 また限られた数だけですが、形容詞も作ります。 女性名詞: √bhaj (分ける) + ti = bhatti (= bhakti (426,注意;59,a)) 分割。 √kitt (褒める) + ti = kitti (t は一つ脱落) 名声。 √gam (行く) + ti = gati (456) 行くこと、旅。 √muc + ti = mutti 解放。√man (思う) + ti = mati (455) 考え。他。 形容詞: √ṭhā (立つ、安定する) + ti = ṭhiti 安定した。 √pad (歩む) + ti = patti (64) 歩く(人)、歩兵。

tu1: これは、正しくは不定詞の接尾辞です。不定詞は対格形になっています (363-i)。 しかし、この接尾辞は名詞を作ることもあります。 主に男性ですが、他の性のこともあります。 √dhā (横たえる) + tu = dhātu (男性・女性) (底に) 横たわるもの、元素、根、原理。 √tan (伸ばす) + tu = tantu (男性) 糸。 √si (縛る) + tu = setu 結ぶもの、橋。

tu2: (ritu, rātu) (上記) に同じです。

tra, ta (tran, ta): たくさんの派生名詞を作ります。主に、動作主-名詞か具象名詞です。 √chad (覆う) + tra, ta = chatraṁ, chattaṁ 傘 (chatra では、子音が三つ連続するのを避けて d が脱落します。chatta では、d は同化しています)。 √ (√gaṁ の別形) (動く) + tra, ta = gattaṁ 手足。 √ (導く) + tra, ta = netraṁ, nettaṁ 目、導くもの。

tha: これを使った派生語はそんなに多くないです。 √ (歌う) + tha = gāthā 歌、(詩の)連、詩。 √tar (Sansk. tr) (渡る) + tha = titthaṁ 浅瀬、桟橋 (連結母音 i を挟みます)。

thu, dhu: この接尾辞が作る派生語はほんの少しです。また、一般的に -athu, -adhu の形になります。 √vip,vep (振る、震える) + thu, dhu = vepathu, vepadhu 震え。 √vam (投げ上げる, 吐く) + thu, dhu = vamathu, vamadhu 吐くこと、吐瀉物。

ra: いくつかの名詞と形容詞を作ります。強調は起きません。たいていは、 -ira, -ura (そちらも参照のこと), -ara の形になります。 √bhand,bhad (受け取る、褒める) + ra = bhadra, bhadda (形容詞) 称賛に値する、 良い、価値のある。√dhī (考える) + ra = dhīra (形容詞) 賢い、賢者。 √bham (パタパタ動く、円を描いて動く) + (a +) ra = bhamara 蜂。

ri: この接尾辞を使う派生語は非常に少ないです: √bhū + ri = bhūri (形容詞) 豊富な。

ru: いくつかの名詞・形容詞を作ります。 √bhī (恐がる) + ru = bhīru 臆病な。 √can (喜ぶ) + ru = cāru (n は脱落) 愛おしい、喜ばしい。

u (ru, u): たくさんの名詞・形容詞を作りますが、多くの場合、語根との意味のつながりを 辿ることは難しいです。そのため、この接尾辞は uṇādi に分類されます。 強調は起きることも起きないこともあります。 √bandh (縛る) + u = bandhu 親類。 √kar + u = karu する人、職人。 √tan (続く、伸びる) + u = tanu 息子。 √vas (照らす、輝く) + u = vasu 宝石、財。

uka (ṇuka): 少数の名詞・形容詞を作ります。動作主を表します。強調が起きます。 √pad (踏む、歩む) + uka = pādukā (女性) 靴。 √kar + uka = kāruka (男性) 職人。

una: 少数の名詞・形容詞を作ります。 √tar (渡る、過ぎ去る) + una = taruṇa 始まったばかりの、若い、新鮮な。 √kar (愛する、哀れむ) + una = karuṇā (女性) 思いやり。 √pis (すりつぶす、傷つける、破壊する) + una = pisuno (形容詞) 陰口を言う、意地の悪い、告げ口する。

ū: いくつかの名詞・形容詞を作ります。 たいていは女性です。 √vid (知る) + ū = vidū 知っている。 vi + √ñā (知る) + ū = viññū 知っている。

ūra: 名詞を少数つくるのみです。 √und (濡れる) + ūra = undūra ネズミ。

usa*, ussa: この接尾辞からできる派生語はとても少なく、疑わしいです。 √man (考える) + usa, ussa = manussa, mānusa 人類。

: これは完了分詞-能動態の接尾辞です。(465) ですでに述べました。

ya: これは中性名詞を作ります。ほとんどは抽象的な意味をもちます。 同化が規則通りに起きます。 √rāj (統治する) + ya = rajjaṁ 王政、王国。 √vaj (避ける) + ya = vajjaṁ 過ち、避けるべきこと。 √yuj (くびき、馬具) + ya = yogaṁ 馬車、乗り物。 ya が未来受動分詞 (466) の接尾辞でもあるということに注意してください。 それが、しばしば中性単数形で名詞を作ることもあるということです。

yāṇa: (lāṇa の項目をご覧ください)

注意 (a) 現在分詞の能動態・反動態、受動完了分詞、完了分詞-能動態、未来受動分詞は、 一次派生語に属すると考えられているということに、気づかれたことでしょう。

注意 (b) 接尾辞 tabba, anīya, ya (ṇya), icca を、ネーティブの文法学者は kicca 接尾辞 と呼びます (466)。

(ii) 二次派生 (taddhita)

579. 二次派生 (taddhita)。

注意 (a) この派生語は、上で説明した kita (一次) 派生語に、 さらに接尾辞を付けて作ります。そのため「二次」派生と呼ばれます。

注意 (b) 二次派生語は、代名詞の語基 (336) からも作られます。

注意 (c) kita 派生のときと同様、強調が起きたり起きなかったりします。

580. 二次派生語の意味について、以下の事項によく注意してください。

(i) taddhita 接尾辞には、名詞から形容詞を作るものがたくさんあります。

(ii) これらの形容詞は、非常に自由に、名詞的に使われます。 男性・女性名詞として使うときは、動作主を意味するのが一般的です。 中性名詞として使うときは、抽象名詞です。

(iii) 単語の末尾の母音は、taddhita 接尾辞が付くと、脱落することが多いです。

(iv) 強調が起きるのは、接尾辞をつける単語の、第一音節であることがほとんどです。

581. 以下に、taddhita 接尾辞をローマ字順に並べます。

a (ṇa, a): 極めて多くの派生語が、この接尾辞を使って作られます。 これは、名詞か、名詞的に使われている形容詞に付けられます。 この派生語は、本質的には形容詞ですが、ほとんどの場合名詞的に使われます。 意味は、主に「~に関する、~に依存している」です。 ~の部分が「一次派生語」の意味するものとなります。 この関係には、必然的にさまざまな種類があります。

(1) 父親の名を採った名: 男性なら「~の息子」、女性なら「~の娘」、中性なら、 「~の血族」を意味します。 vasiṭṭha + a = vāsiṭṭho バシッタの息子, vāsiṭṭhī バシッタの娘, vāsiṭṭhaṁ バシッタの血族。 同様に、visamitta + a = vesamitto, vesamittā, vesamittaṁmanu + a = mānavo, mānavī, mānavaṁ (110,注意) マヌの息子、娘、血族。

(2) ~で染められたもの。kasāva (山吹色の染料) + a = kāsāvo 山吹色の, kāsāvaṁ 山吹色の服、袈裟。同様に: haliddā (ウコン) + a = hāliddo ウコンで染めた、黄色の。

(3) ~の肉。sūkara (豚) + a = sokaraṁ 豚肉。mahisa (水牛) + a = māhisaṁ (水牛の肉)。 形容詞として: sokaro 豚に関する。māhiso 水牛に関する。

(4) ~に属する。vidisā (外国) + a = vediso 外国に属する、外国人。 magadhā (マガダ国) + a = māgadho マガダ国に属する、出身の。

(5) ~の集まり。kapota (ハト) + a = kāpoto 鳩の群れ、鳩の群れに関する。 mayūra (孔雀) + a = māyūro 孔雀の群れ、孔雀の群れに属する、関する。

(6) ~の研究、知識、~を知っている。 nimitta (予兆) + a = nemitto 予兆を知る者、占い師。 veyyā karaṇaṁ (釈義、文法) + a = veyyākaraṇo 文法学者。 muhutta (少しの時間) + a = mohutto 少しの時間しか勉強しない人、瞬間に関する、一瞬の。

(7) ~が存在する場所。 sakuṇa (鳥) + a = sākuṇaṁ 鳥が休む場所、鳥が良く来る場所。 udumbara (イチジクの木) + a = odumbaraṁ イチジクの木が生えている場所。

(8) ~を所有する。 paññā (知恵) + a = pañño 知恵を持っている、賢い、賢者。 saddhā (信仰) + a = saddho 信仰を持つもの、信仰している、信心深い、信者。

aka (ṇaka): 「~の持ち物」を意味するそうです。 manussa (人) + a = manussakaṁ (人に所属するもの、人の特性、人間らしい)。 (ka を参照)

aya: ya を参照。

ālu: (これは、ā の後ろに接尾辞 lu が付いたものです。(lu を参照)) 性向を意味します。また、いくつかの過去分詞的な形容詞を作ります。 dayā (同情) + ālu = dayālu (同情的な)。 abhijjhā (強欲) + ālu = abhijjhālu (強欲の傾向がある、強欲な)。 sīta (冷たい) + ālu = sītālu 冷たい。

āna (ṇāna): 父親の名を採った名前を作ります。 kacca (固有名詞の一つ) + āna = kaccāno, kaccānī, kaccānaṁ カッチャの息子、娘、子孫。 cora (盗人) + āna = corāno, corānī, corānaṁ 盗人の息子、娘、子孫。

āṇa: (lāṇa, yāṇa の形で、kita 接尾辞として出てきました。上をご覧ください) この接尾辞からできる派生語は非常に少数です。 kalya (同化して kalla) (健康な、覚えている、考えている) + āṇa = kalyāṇo, kallāṇo 幸せな、健康に恵まれた、良い。

āyana (ṇāyana): 父親の名を採った名前を作ります。 kacca + āyana = kaccāyano, kaccāyanī, kaccāyanaṁ カッチャの息子、娘、子孫。 vaccha + āyana = vacchāyano, vacchāyanī, vacchāyanaṁ バッチャの息子、娘、子孫。

bya: 「~という状態」を意味するそうです。 dāsa (奴隷) + bya = dāsabyaṁ 奴隷状態、奴隷身分。

dhā: これはすでに述べました (上記の kita 接尾辞をご覧ください)。

era (ṇera): 父親の名を採った名前を作ります。 元の語の末尾の母音は脱落します。 vidhava + era = vedhavero ビダバの息子。 naḷika + era = nāḷikero ナリカの息子。 samaṇa (沙門) + era = sāmaṇero 沙門の息子 (つまり、弟子、新参者)。

eyya1 (ṇeyya): 「~の状態、性質」。 alasa (怠惰な) + eyya = ālaseyyaṁ (怠惰さ)。 sa (自分の) + pati (持ち主) + eyya = sāpateyyaṁ (patii が脱落していることに注意) 自分自身の持ち物、財産。

eyya2 (ṇeyya): 父親の名を採った名前を作ります。強調が起きます。 vinata + eyya = venateyyo ビナタの息子。 mālī 庭師 + eyya = māleyyo 庭師の息子。

eyya3: 「性質が~のもの、起源が~のもの、~で作られたもの、~で育てられたもの」 pabbata + eyya = pabbateyya 山にあるもの、山に住む人、山に属する。 suci (純粋さ) + eyya = soceyyaṁ 純粋な人の状態、浄化。 kula (家族) + eyya = koleyyo (高貴な) 家に属する、で育てられた、高貴な家系の。 bārāṇasī (バーラーナシー) + eyya = bārāṇaseyyaṁ バーラーナシーで作られたもの (直訳: 起源がバーラーナシーのもの)。

eyya4: 「~にふさわしい、~に値する」これは未来受動分詞の一つの形です。(468) ですでに説明しました。

i1 (ṇi): a で終わる名詞から、父親の名を採った少数の名前を作ります。 duna + i = doni ドゥナの息子。 anuruddha + i = anuruddhi アヌルッダの息子。 jinadattha + i = jinadatthi ジナダッタの息子。

i2: pura (街、都市) の後ろに付いて、都市に属するもの、都市に特有のものを意味します: pori 都会風の、礼儀正しい、物柔らかな。

ika (ṇika): 非常に広く応用されます。名詞・形容詞の後ろに付きます。一般的に強調が起きます。 意味は以下の通りです。

(1) 父親の名を採った名前。nādaputta + ika = nādaputtiko ナーダプッタの息子。 jinadattha + ika = jinadatthiko ジナダッタの息子。

(2) 「~を手段にして生きている」。 nāvā (船) + ika = nāviko 船を手段にして行く人、生きる人 (= 船乗り)。 balisa (釣り針) + ika = bālisiko 釣り人。 vetana (賃金) + ika = vetaniko 賃金をもらって生きる人、労働者。

(3) 「~を手段にして行く」。 pada (足) + ika = pādiko 足を使って行く人、歩行者。 sakaṭa (荷車) + ika = sākaṭiko 荷車に乗って行く人。

(4) 「~に関連する」。 samudda (海) + ika = sāmuddiko 海に関連する。 sakaṭa (荷車) + ika = sākaṭiko 荷車に関する。

(5) 「~を演奏する」。 vīṇā (ギターのような楽器) + ika = veṇiko ビーナーを弾く、ビーナー奏者 (27,ii,注意 2)。 bheri (太鼓) + ika = bheriko 鼓手、太鼓に関する。

(6) 「~と混ざった」。 tela (油) → telikaṁ 油を混ぜたもの、油っぽい。 dadhi (凝乳) → dadhikaṁ 凝乳を混ぜたもの、dadhiko 凝乳を混ぜた、に関する。

(7) 「~を作る」。 tela (油) → teliko 油を作る人。

(8) 「~と繋がった」。 dvāra (扉) → dvāriko 扉と繋がった、門衛。

(9) 「~に載せて運ぶ」。 khandha (肩) → khandhiko 肩に載せて運ぶ人。 aṅguli (指) → aṅguliko 指に載せて運ぶ人。

(10) 「(場所) で生まれた、に属する、に住んでいる」。 sāvatthisāvatthiko サーバッティの、出身の、に住んでいる。 kapilavatthukapilavatthiko カピラバットゥの、出身の、に住んでいる。

(11) 「~を研究している、学んでいる」。 vinaya (律) → venayiko 律を学んでいる人。 suttanta (経) → suttantiko 経を学んでいる人、経蔵を知る人。

(12) 「~が行うこと」。 mānasa (精神) → mānasiko 精神による、mānasikaṁ 精神が行う行為。 sarīra (体) → sārīriko 体による、sārīrikaṁ 体が行う行為。

(13) 「~と交換できるもの」。 suvaṇṇa (黄金) → sovaṇṇikaṁ 黄金で買えるもの、sovaṇṇiko 黄金に関する。 vattha (布) → vatthikaṁ 布と交換するもの。vatthiko 布に関する。

(14) 「~を持つもの」。 daṇḍo (杖) → daṇḍiko 杖を持つもの、乞食。 mālā 花輪 → māliko 花輪を持つもの。 puttiko 息子を持つもの。

(15) 「~の集まり」。 kedāra (農地) → kedārikaṁ 農地の集合。 hatthi (象) → hatthikaṁ 象の群れ。

(16) 「~の容量」。 kumbha (壺) → kumbhiko 壺一杯の量の、kumbhikaṁ 壺一杯の量。

ima: 空間・時間の位置か方向を意味します。関係を示すこともあります。 pacchā (後ろ、西の) → pacchimo 一番後ろの、西の。 anta (限り、終わり) → antimo 最後の、最終の。 majjha (中央の) → majjhimo 中くらいの。

imā: 限られた数の所有形容詞を作ります。 putta (息子) → puttimā 息子のいる人。 pāpa (邪、罪) → pāpimā 罪深い、邪悪な。

この接尾辞は、(221,222) で述べたものと同じです。 連結母音が前に付いているだけです。

in (ṇi): たくさんの所有形容詞を作ります。名詞的に使われることが非常に多いです (137)。 語幹は -in という形で、単数主格は ī です。 daṇḍa (杖) → daṇḍī 杖を持った。manta (計画) → mantī 計画を持った、大臣、顧問。 pāpa (邪悪) + in = pāpī 邪悪を持った、邪悪な。

ina: 少数の所有形容詞を作ります。 mala (汚れ) + ina = malina 汚い。

issika: 最上級 (238) を作ります。

iya: 少数の抽象名詞を作ります。 issara (首長) + iya = issariyaṁ (支配)。 alasa (怠惰な) + iya = ālasiyaṁ (怠惰)。

iya: 上の ima と同じです。

iya: これは、īya (466) と同じで、本質的には未来受動分詞の接尾辞です。 この接尾辞の正しい形は īya です。

ī1: 上の in を見てください。

ī2: 11 以上の基数の後ろに付いて、(暦の) 日 を表す序数を作ります。 ただし、普通の序数として使われることも時々あります。 ekādasa (十一) + ī = ekādasī 11日、単に「11番目の」。 catuddasa (十四) + ī = catuddasī 14日、単に「14番目の」。

ka (kaṇ): 形容詞を作るためによく使われます。中性形は、抽象名詞になります。 また、男性名詞も一定数作ります。ただしこれは、名詞的に用いられる形容詞です。 強調が起こることもよくあります。 rakkhā (保護) + ka = rakkhako 守る、保護者。 rakkhana (防御) + ka = rakkhanako 保護者。 ramaṇeyya (愉快な) + ka = rāmaṇeyyako 愉快な、rāmaṇeyyakaṁ 愉快さ。

この接尾辞には、他にもいくつかの意味があります。

(1) 集まり。rājaputta (王子) + ka = rājaputtaka 王子の集まり。 manussa (人) + ka = mānussakaṁ 人の集まり。

(2) 指小語。ある程度の軽蔑が混じっていることも時々あります。 pāda (足) → pādako (小さな足)。rāja (王) → rājako (幼君)。 putta (息子) → puttako (小さな息子)。 ludda (狩人) → luddako (若い狩人)。

(3) ka を付けても元の語と意味が変わらないことがまれではありません。 kumāra (子供、若い王子) + ka = kumārakonava (若い) + ka = navaka

(4) 複合語 (特に bahubbīhi) の後ろに付くことがよくあります。 所有形容詞を作りますが、意味を変えないことも多いです。

(5) 数詞 + ka の使い方は (286) で説明しました。

kaṭa: これを接尾辞と考える文法学者もいます。接頭辞と一緒に使われます: ni + kaṭa = nikaṭa (近くの)。vi + kaṭa = vikaṭa (変形した)。 pa + kaṭa = pākaṭa (明白な、公開された、明らかな)。 sam + kaṭa = saṅkaṭa (狭い)。 おわかりのように、kaṭa は元の接頭辞と (ほぼ) 同じ意味の形容詞を作ります。 これは、おそらく √kar (する) の受動完了分詞 kata の別形だと思われます。

kiya: 関連、繋がりを意味する形容詞を作ります (ka + iya からできた接尾辞であることは疑いありません)。 andha (アーンドラ国) + kiya = andhakiya アーンドラ国に関連する、属する。 jāti (誕生) + kiya = jātikiya 誕生に関する、生まれつきの。

la: 少数の形容詞・名詞を作ります。しばしば i, u が前に挟まれます。 bahu (たくさんの) + la = bahulo 豊富な。 vācā (言葉) + la = vācālo おしゃべりの。 phena (泡) + la = phenila 泡状の、シャボンノキ、石鹸。 mātā (母) + ula = mātulo 母方の伯父。 vaṭṭa (円) + ula = vaṭṭulo 円形の。 kumbhī (壺) + la = kumbhīlo 壺のような (腹を持つ)、ワニ。 lara (下を参照) の別形です。rl はしばしば入れ替わります (47,vi)。

lu: 上の ālu をご覧ください。

ma: 序数を作ります (274)。 ma は、最上級の意味を持つこともあります (上の ima を参照)。 ima は、接尾辞 ma の前に i が挟まれたものです。

(mantu) (mant): 所有の形容詞を作る接尾辞としてよく使われます。 (220,221,222,223,224) ですでに解説しました。

maya: 「~でできている」という意味の形容詞を作ります。 suvaṇṇa (黄金) + maya = suvaṇṇamaya 黄金でできた。 rajata (銀) + maya = rajatamaya 銀でできた。

min = : 少数の所有形容詞を作ります。語幹は -in、単数主格は で終わります (in, ī を参照)。go (牛) + min = gomin (gomī) 牛を持っている、牛の持ち主。 sa (自分) + min = sāmin (sāmī) 主人、領主。

: 直前の項を参照。

ra: 少数の形容詞を作ります。強調が起きることもあります。 a, i が前に挟まれることが多いです。 madhu (蜂蜜) + ra = madhura 甘い、甘さ。 sikhā (峰) + ra = sikhāra 峰のある、山。 susa (空っぽの、穴) + (i +) ra = susira 穴だらけの。 kamma (仕事) + ara = kammāro 仕事を持っている、仕事をしている、職人、鍛冶屋。

so: ra と同じ意味です。medhā (知恵) + so = medhaso 知恵を持っている、賢い。 loma (体毛) + so = lomaso (毛深い)

sī, ssī: vin = (下記) を参照。

ta: 少数の所有名詞・形容詞を作ります。 pabba (幹のこぶ、関節) + ta = pabbata でこぼこがある、山。 vaṅka (曲がった) + ta = vaṅkata 曲がった、奇形の。

tama: 最上級を作る接尾辞です (238,i)。

tana: この接尾辞は、副詞から少数の形容詞を作ります。 svā (sve, suve) (明日) + tana = svātano 明日の。 sanaṁ (Sansk. sanā) (昔から、いつも) + tana = sanantano 太古の、古い、恒久の。 (今) + tana = nūtana 新鮮な、新しい。

tara: 比較級を作る接尾辞です。(238,i) で説明しました。

1: 形容詞・名詞から、女性の抽象名詞をたくさん作ります。 「(その形容詞・名詞の意味するもの) である状態、である性質」という意味になります。 lahu (軽い) + = lahutā (軽さ)。 sāra (髄) + = sāratā (真髄、強さ)。 ati (接頭辞) (非常に) + sūra (英雄) + = atisūratā (偉大な英雄的資質)

2: 大群、集まりを意味します。 jana (人) + = janatā 人の群れ、人々。 gāma (村) + = gāmatā 村の集まり。 nagaratā, bandhutā なども同様です。

ti: 10 の倍数を表す語を作ります (251)。

tta (Sansk. tva): 1 と同じ意味の中性名詞を作ります。 puthujjana (一般人) + tta = puthujjanattaṁ 一般人であるという状態。 buddha (仏陀) + tta = buddhattaṁ 仏陀であること。 atthi (彼がいる) + tta = atthittaṁ 「いる」という状態、存在。

ttana (Sansk. tvana): 直前のものと同じ意味で使われます。 puthujjana + ttana = puthujjanattanaṁ 一般人であるという状態。 vedanā (感受) + ttana = vedanattanaṁ 感受しているということ。

tya = cca (Sansk. tya): 不変化詞から少数の形容詞を作ります。 ni (中で) + cca = nicca 内部の、仲間、自分の、永遠の、恒久の。 amā (家で) + cca = amacco 仲間、相談役。 (tyacca になることについては、(74) を参照)

tha: 第4, 5, 6, 7 の序数を作ります (251)。

thaṁ: 代名詞の語幹から副詞を作ります。 (337) で説明しました。

thā: これも (337) で説明しました。

(vantu) (vant): 非常に多くの所有形容詞を作ります。 (mant) と性質が似ています (220)。

va: 少数の形容詞を作ります。 aṇṇa (波) + va = aṇṇavo 大波の、大洋。 kesa (髪) + va = kesavo 髪の豊かな (ビシュヌ神の名)

= vin: 所有形容詞を作ります。語幹は -in で、単数主格は です。 (231) で説明しました。

この接尾辞は、-s で終わる語幹を持つ名詞にも付くことがあります (158,160):

tapas (tapo) (苦行) + = tapassī (tapasvī) 苦行者。
yasas (yaso) (名声) + = yasassī (yasasvī) 名声のある。

v は末尾の s と同化して、ssī となります。 ネーティブの文法学者は、ssī を接尾辞として与えます。 学習者も、これが本物の接尾辞だと思うべきです。

ya (ṇya): 非常に多くの名詞を作ります。たいていは中性の抽象名詞です。 ほとんどの場合、強調が起きます。また同化が起きるのが通例です。 alasa (怠惰な) + ya = ālasyaṁ, ālassaṁ 怠惰さ。 kusala (熟練の) + ya = kosallaṁ 技能。 paṇḍita (賢い) + ya = paṇḍiccaṁ 博学、知識。 vipula (広い、大きな) + ya = vepullaṁ 発達。 samāna (等しい、同じ) + ya = sāmañño 一般的な。 dakkhiṇa (愛想の良い) + ya = dakkhiñño 愛想のいい、優しい、 dakkhiññaṁ 愛想の良さ、優しさ。

(iii) 接尾辞として使われる語根 (kvi)

582. kvi とは、見かけの接尾辞です。 この接尾辞は、語根そのものが接尾辞とみなされたものです。 その語根が子音で終わるときは、その子音は脱落します: √gamga,ghan (殺す) → gha。 これらは主に形容詞を作ります。 ですから、必ずではないですが、三つの性の語尾を持つことがあります。

583. 注意しなくてはいけないことは、ネーティブの文法学者は kvikita に含めているということです。 ですが、kvi は一次派生語、二次派生語、不変化詞の後ろに付くものですから、 別物として扱いたいと思います。

584. 接尾辞として使われる主な語根を以下に挙げます。

bhū (√bhū である): 一般的に、この動詞そのものの意味を持ちます: abhi + bhū = abhibhū 支配する (人)、打ち勝つ (人)、征服者 (abhibhavati 打ち勝つ)。 vi + bhū = vibhū 生じる、広がる、領主 (vibhavati 生じる、広がる)。 sam + bhū = sambhū 子孫、跡継ぎ (sambhavati 生まれる)

da (√ 与える): amata (不死) + da = amatado 不死をもたらす (者)。 lokahita (世界の幸福) + da = lokahitado 世界の幸福をもたらす、願う。

ga (√gam 行く): pāra (向こう岸) + ga = pārago 彼岸に行った、涅槃した。 kula (家族) + upa (近くに) + ga = kulupago 家族のそばに行く人、家族の相談役。

(√gam の別形): addhā (距離) + = addhagū 遠くへ行く、旅行者。 pāra + = pāragū (= pārago (上記))。

gha (√ghan = han (59,注意) 打つ、殺す): paṭi (返しに) + gha = paṭigho 憎しみ。

ja (√jā, jan 生まれる、生み出される): paṅka (泥) + ja = paṅkaja 泥の中で生まれる、蓮。 aṇḍa (卵) + ja = aṇḍaja 卵から生まれる、鳥。

ji (√ji 勝つ): māra (仏陀の敵、魔羅) + ji = māraji 魔羅に勝った者。

pa (√ 飲む): pāda (足) + pa = pādapo 足 (根) から飲むもの、木。

pa (√ 守る): go (牛) + pa = gopo 牛飼い。

ṭha (√ṭhā 立つ、存在する): nāvā (船) + ṭha = nāvaṭṭho 船に蓄えられた。 ākāsa (空) + ṭha = ākāsaṭṭho 空中に立っている、留まっている。

kha (√khā = √khan (掘る) の別形) pari (周りに) + kha = parikha ぐるっと掘った、堀。

dada: これは、正しくは √ の語基 (371-4) ですが、これを語根と考える文法学者もいます。 これは、上記の da と同様に使われます: sabbakāmadadaṁ kumbhaṁ 全ての欲望をかなえる壺。

585. taddhita 接尾辞は、以下のように分類できます。

そのほかは、雑多な物として分類されます。

586. お気づきかもしれませんが、いくつかの接尾辞は、 元の接尾辞の前に a, i, u が付いただけです。 例えば: aka, ikaka; aya, iyaya; ara, ira, urara; ilala

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