第十二章

複合語

539. 屈折する語の語幹同士がくっついて、複合語になることがよくあります。 初期のパーリ語では、複合語はシンプルで、二・三個より多くの語幹が複合することは まれでしたが、後期になればなるほど (つまり、注釈書や注釈書の注釈書になると) 複雑になりました。

540. 複合語の始めの要素は、不変化詞であることもあります。 不変化詞だけからなる複合語も、少数あります。

注意: 複合語の中では、最後の要素以外の格語尾は一般的に脱落します。 これらの格語尾が保存される例はほんの少ししかありません。

541. 複合語には六つの種類があります。

(i) dvanda: 連結複合語または集合複合語
(ii) tappurisa: 従属限定複合語
(iii) kammadhāraya: 記述限定複合語
(iv) digu: 数詞限定複合語
(v) abyayibhāva: 副詞的複合語
(vi) bahubbīhi: 関係詞節的複合語または修飾語的複合語

注意: ネーティブの文法学者は、上の事柄を四つに分類します。 その場合、(iii) と (iv) が (ii) tappurisa の下位区分とされます。 しかしこの分類法は、区別が充分はっきりしないため、学習者を不必要に混乱させます。 ですから、私たちは (541) の分類法に従うことにします。

dvanda (連結複合語・集合複合語)

542. この複合語の要素同士は、複合しない状態では、構文的に等位です。 各々の要素は、接続詞 ca 「と」で結ぶことができます。

543. dvanda 複合語は二つに分類できます。

(i) 複数形であって、性と曲用型が最後の要素と同じになる複合語。

(ii) 中性単数形になり、含まれる要素の個数がいくつであれ、 集合名詞となる複合語。これは以下の名前を使った複合語の場合に一般的です: 鳥、体の部位、性別の違う人、国、木、草、東西南北、家畜、 対照をなす物、など。

注意: dvanda 複合語の要素同士の順番について、以下の規則が与えられています:

(a) i, u で終わる語は最初に来ます。
(b) 短い語は、長い語より前に来ます。
(c) 長い ī, ū は、複合語の内部では短くなるのが一般的です。
(d) 女性名詞は、複合語の内部で男性形になることもありますし (例: candimasuriyā)、そのままのこともあります (例: jarāmaraṇaṁ)。

(i)の例

samaṇā ca brāhmaṇā ca = samaṇabrāhmaṇā (沙門たちとバラモンたち)
devā ca manussā ca = devamanussā (神々と人々)
devānañ ca manussānañ ca = devamanussānaṁ (神々と人々の)
candimā ca suriyo ca = candimasuriyā (太陽と月)
aggi ca dhūmo ca = aggidhūmā (火と煙)
dhammo ca attho ca = dhammatthā (意図した意味と表面上の言葉)
sāriputte ca moggallāne ca = sāriputtamoggallānesu (サーリプッタとモッガッラーナにおいて)

(ii)の例

(ii) に分類される複合語も、(i) のように複数形になることが時々あるので 注意してください。

mukhanāsikaṁ = mukhañ ca nāsikā ca (口と鼻)
chavimaṁsalohitaṁ = chavi ca maṁsañ ca lohitañ ca (肌と肉と血)
jarāmaraṇaṁ = jarā ca maraṇañ ca (老いと死)
hatthapādaṁ または hatthapādā = hatthā ca pādā ca (手と足)
hatthiassaṁ = hatthino ca assā ca (象と馬)
kusalākusalaṁ または kusalākusalā = kusalaṁ akusalañ ca (善と悪)
vajjimallaṁ または vajjimallā = vajjī ca mallā ca (バッジ人たちとマッラ人たち)

544. 複数形となる複合語は、itaritara と呼ばれます。 複合語の要素が別々に考えられているからです。 中性単数形となる複合語は、samāhāra と呼ばれます。 いくつかある要素が、集合的に考えられているからです。 複数形にも中性単数形にもなる複合語は、vikappasamāhāra と呼ばれます。

tappurisa (従属限定複合語)

545. この複合語は、始めの要素が主格・呼格以外の名詞です。 そしてそれが、後ろ側の要素を修飾・説明・限定します。

注意 (a) 始めの要素の格語尾は消えます。

注意 (b) 格語尾が消えない例も少数あります。 このような複合語は alutta tappurisa と言います。

注意 (c) 始めの要素が rājā, mātā, pitā, bhātā などの場合、これらの末尾の ā は短くなります。

注意 (d) 一般的に、tappurisa の性は、最後の要素と同じになります。

(i) 対格の tappurisa (dutiya tappurisa)

araññagato = araññaṁ gato 森に行った
sukhappatto = sukhaṁ patto 幸福を得た
saccavādī = saccaṁ vādī 真実を話す(人)
kumbhakāro = kumbhaṁ kāro 壺を作る人、陶工
pattagāho = pattaṁ gāho 鉢を受け取る人
atthakāmo = atthaṁ kāmo 繁栄を願う(人)

(ii) 具格の tappurisa (tatiya tappurisa)

buddhabhāsito = buddhena bhāsito 仏陀によって話された
viññugarahito = viññūhi garahito 識者たちに非難された
sukāhaṭaṁ = sukehi āhaṭaṁ オウムによって運ばれた
jaccandho = jātiyā andho 生まれもってめくらの
urago = urena go 胸を使って進む、蛇
pādapo = pādena po 足を使って飲む、木

注意: tappurisa 複合語の中には、 完全な意味を正しく言い表すのに必要な語が、 すっぽり抜け落ちているものがあります。

guḷodano = guḷena (saṁsaṭṭho) odano 糖蜜を (混ぜた) 粥
assaratho = assena (yutto) ratho 馬を (繋いだ) 車、馬車
asikalaho = asinā kalaho 剣での戦闘

(iii) 与格の tappurisa (catutthī tappurisa)

注意: この複合語は、始めの要素が後ろの要素のために向けられている、という意味になります。

kaṭhinadussaṁ = kaṭhinassa dussaṁ, カティナ服のための布
(カティナ服とは、毎年決まった日に、善行として縫われる服です)
saṅghabhattaṁ = saṅghassa bhattaṁ 僧伽のための食事
buddhadeyyaṁ = buddhassa deyyaṁ 仏陀へ与えるに値する
rājārahaṁ = rañño arahaṁ 王となるのにふさわしい

不定詞に kāmo (…したがっている) を付けて作る複合語は、 与格の tappurisa と考えられます (nīruttidīpanī, saddanīti)。

kathetukāmo = kathetuṁ kāmo 話したがっている
sotukāmo = sotuṁ kāmo 聞きたがっている
gantukāmo = gantuṁ kāmo 行きたがっている

(iv) 奪格の tappurisa (pañcamī tappurisa)

注意: この複合語の意味は、~を恐れて、~から離れて、~から解き放たれて、 などとなります。

nagaraniggato = nagaramhā niggato 街から出た
rukkhapatito = rukkhasmā patito 木から落ちた
sāsanacuto = sāsanamhā cuto 教えから落ちた
corabhīto = corā bhīto 盗人を恐れている
pāpabhīruko = pāpato bhīruko 罪を恐れている
pāpajigucchī = pāpato jigucchī 悪を嫌がる
bandhanamokkho = bandhanasmā mokkho 絆から解き放たれた
lokaggo = lokato aggo 世界より偉大な
mātujo = mātito jo 母から生まれた

(v) 属格の tappurisa (chaṭṭha tappurisa)

注意 (a) 属格の関係にある tappurisa は飛びぬけてよく出てきます。

注意 (b) 始めの要素の末尾の ī, ū は、通例、 i, u と短くなります。

注意 (c) ratti (夜) は、tappurisa の最後の要素となるときは rattaṁ という形になります。

rājaputto = rañño putto 王の息子、王子
dhaññarāsi = dhaññānaṁ rāsi 穀物の山
naditīraṁ = nadiyā tīraṁ 川の岸 (元の語の末尾は長いです: nadī)
bhikkhunisaṅgho = bhikkhunīnaṁ saṅgho 尼僧の集まり (元の語は bhikkhunī)
naruttamo = narānaṁ uttamo 男の中で一番偉大な

処格の tappurisa (sattamī tappurisa)

araññavāso = araññe vāso 森での生活
dānajjhāsayo = dāne ajjhāsayo 施しをしたがっている
dhammarato = dhamme rato 法を楽しんでいる
vanacāro = vane cāro 林の中を歩くこと
thalaṭṭho = thale ṭho 地に足を付いている
pabbataṭṭho = pabbatasmiṁ ṭho 山に立っている

不規則な tappurisa

tappurisa の要素の前後が入れ替わることが、時々あります。

rājahaṁso = haṁsānaṁ rājā 白鳥の王 → haṁsarājā という形もあります。

alutta tappurisa

以下の例では、格語尾が脱落しません。

pabhaṅkaro = pabhaṁ karo 光を作るもの、太陽
vessantaro = vessaṁ taro ヴァイシャへと渡っていく (王の名)
parassapadaṁ = parassa padaṁ 他人のための語、能動態
attanopadaṁ = attano padaṁ 自分のための語、反射態
kutojo = kuto jo どこから生まれた?
antevāsiko = ante vāsiko 中に住んでいる人、住み込みの弟子
urasilomo = urasi (処格) lomo 胸に毛のある、胸毛のある

始めの要素は、主格と呼格以外のどの格でもありえる、ということに 気づかれるでしょう。

kammadhāraya (記述限定複合語)

546. kammadhāraya (記述限定複合語)。

注意 (a) kammadhāraya 複合語の中では、 形容詞 mahantamahā という形になります。 また、もし後ろに続く子音が二重になるときは、 maha という形になります。

注意 (b) santa (良い、存在する) は、sa (Sansk. sat) という形になります。

注意 (c) pumā (男) は、puṁ という形になります。

注意 (d) kammadhāraya の要素が二つとも女性の場合は、 始めの要素は男性形になります。

注意 (e) 接頭辞 na (~ない) は、子音の前では a に、 母音の前では an に置き換わります。

注意 (f) 接頭辞 ku (悪い、少ない) は、子音の前では ka に、母音の前では kad になることがあります。

注意 (g) kammadhāraya とは、複合する二つの要素が、 複合する前は同じ格になっているような複合語です。

注意 (h) kammadhāraya 複合語 (missaka-tappurisa ともいいます) は、 九つに分類できます。

(1) visesana-pubba-pada-kammadhāraya: 限定する・修飾する語が、前に来ます。

mahāpuriso = mahanto puriso 偉大な人
mahānadī = mahantī nadī 大きな川
mahabbhayaṁ = mahantaṁ bhayaṁ 大きな恐怖
aparapuriso = aparo puriso もう片方の人
kaṇhasappo = kaṇho sappo 黒い蛇
nīluppalaṁ = nīlaṁ uppalaṁ 青い蓮

(2) visesanaparapada-kammadhāraya (visesanuttarapada-kammadhāraya): 修飾語が後ろに来て、それが始めの語に係ります。

naraseṭṭho = naro seṭṭho 最も年上の男
purisuttamo = puriso uttamo 最も偉大な男
buddhaghosācariyo = buddhaghoso ācariyo ブッダゴーサ師
sāriputtathero = sāriputto thero サーリプッタ長老

(3) visesanobhayapada-kammadhāraya: 二つの要素が、どちらも修飾語です。

注意: この複合語の二つの要素の間には、so (それ) のような語が、暗黙に挟まるのが 一般的です。

sītuṇhaṁ = sītaṁ (tañ ca) uṇhaṁ 冷たい (もの) と熱い (もの)
khañjakhujjo = khañjo (so ca) khujjo びっこで腰の曲がった (人)
andhabadhiro = andho (so ca) badhiro めくらでつんぼの (人)
katākataṁ = kataṁ (tañ ca) akataṁ やったこととやってない (こと)

(4) sambhāvanāpubbapada-kammadhāraya: この複合語では、始めの要素が後ろの要素の起源を表しています。 あるいは、後ろの要素が始めの要素に依っている、という関係です。 この複合語の意味を完全にするためには、一般的に次のような語が暗黙にあると考えます: iti (つまり、…という)、evaṁ (そのように、…という)、saṅkhāto (と呼ばれる)、 hutvā (である)。

hetupaccayo = hetu (hutvā) paccayo 原因 (という) 関係
aniccasaññā = anicca (iti) saññā 無常 (という) 概念
hīnasamato = hīno (hutvā) samato 下劣 (という点で) 等しい
dhammabuddhi = dhammo (iti) buddhi 法 (から生じる) 知恵
attadiṭṭhi = attā (iti) diṭṭhi 魂 (という) 思い込み

(5) upamā- または upamānuttarapada-kammadhāraya: 二つの要素が比喩の関係にあります。 両者の間に viya (のような) が暗黙にあると考えます。

buddhādicco = ādicco viya buddho 太陽のような仏陀
munisīho = sīho viya muni ライオンのような聖人
munipuṅgavo 雄牛のような聖人
buddhanāgo 象のような仏陀
saddhammaraṁsi = raṁsi viya saddhammo 光のような正しい法

注意: ādicca (太陽)、sīha (ライオン)、puṅgava, usabha (雄牛)、 nāga (象) は、上の例のように、 優れていること、偉大なこと、秀逸なこと、卓越していること、 を意味するものとして、よく使われます。ですから、buddhādicco は「卓越した仏陀」、 munisīho は「偉大な聖人」、munipuṅgavo は「卓越した聖人」などと訳すことができます。

(6) avadhāranapubbapada-kammadhāraya: 後ろの大ざっぱな言葉を、始めの要素が特定します。 ネーティブの文法学者は、この複合語を分解するときに、 二つの要素の間に eva (ちょうど、だけ) を挟みます。 ですが、この eva は日本語にはうまく訳せません。 「~という…」などと訳します。

guṇadhanaṁ = guṇo eva dhanaṁ 美徳という富
sīladhanaṁ = sīlaṁ eva dhanaṁ 敬虔という富
paññāsatthaṁ = paññā eva satthaṁ 知恵という剣
paññāpajjoto = paññā eva pajjoto 知恵というランプ
avijjāmalā = avijjā eva malaṁ 無知という穢れ

(7) kunipātapubbapada kammadhāraya: 始めの要素が ku です (上の注意 (f) を参照)。

kuputto = ku + putto 悪い息子
kudāsā = ku + dāsā 悪い奴隷
kadannaṁ = kad + annaṁ 悪い食べ物
kāpuriso = + puriso 悪い男
kadariyo = kad + ariyo 高貴でない、下品な、けちな、せこい
kalavaṇaṁ = ka + lavaṇaṁ 少しの塩

(8) nanipātapubbapada-kammadhāraya: 注意 (e) 参照。

anariyo = na + ariyo 下品な
anīti = na + īti 災難のない、安全な
anūmi = na + ūmi 波のない、凪いだ
anatikkamma = na + atikkamma (動名詞) 渡らずに
anatthakāmo = na + atthakāmo (~の) 繁栄を願わない

(9) pādipubbapada-kammadhāraya: 始めの要素が pā, pa や、その他さまざまの接頭辞です。

pāvacanaṁ = pa + vacanaṁ 秀逸な言葉、仏陀の言葉
(ネーティブな文法学者は、pakaṭṭho (秀逸な) の略形だと考えます)
pamukho = pa + mukho (顔) ~に向かって、~の前で、主要な
vikappo = vi + kappo (思い) 選択
atidevo = ati + devā 最高の神 (devādevo になることに注意)
abhidhammo = abhi + dhammo (法) 超越した法
uddhammo = ud + dhammo 間違った法
ubbinayo = ud + vinayo (戒律) 間違った戒律
sugandho = su + gandho 良い香り
dukkataṁ = du + kataṁ 悪い行い

547. 同格の名詞

同格の名詞は、kammadhāraya 複合語と考えます。

vinayapiṭakaṁ 戒律かご (仏教経典の一つ)
aṅgajanapadaṁ アンガ国
magadharaṭṭhaṁ マガダ国
cittogahapati チッタという名の家主
sakkodevarājā 神々の王サッカ

注意: kammadhāraya の最後の要素が女性のとき、 男性形になることがあります。

dīghajaṅgho = dīgha + jaṅghā (女性) 脚の長い

digu (数詞限定複合語)

548. digu には二種類あります。

(i) samāhāra digu: 集合的に考えられて、中性単数形 -ṁ になります。

(ii) asamāhāra digu: digu が全体を意味するのではなくて、 後ろの要素の指すものが一つ一つ考えられているときは、 複合語は通例、複数形になります。

注意 (a) -a 以外の母音で終わる語の中には、digu の最後の要素になるとき、 末尾の母音が a に変わるものがあります。

注意 (b) 始めの要素は数詞です。この数詞は、語幹のみが使われます。

(i) samāhāra digu

tilokaṁ 三つの世 (集合的)
tiratanaṁ 三宝 (集合的)
catusaccaṁ 四諦 (集合的)
sattāhaṁ = satta + ahaṁ (日) 七日、一週間
pañcasikkhāpadaṁ 五戒 (集合的)
dvirattaṁ = dvi + ratti 二夜 (-a に注意)
pañcagavaṁ = pañca + gavo 五頭の牛 (-a に注意)
tivaṅgulaṁ = ti + v (挿入,28) + aṅguli 三つの指
navasataṁ 九百
catusahassaṁ 四千

(ii) asamāhāra digu

tibhavā 存在の三つのありよう
catudisā 四方
pañcindriyāni = pañca + indriyāni 五感
sakaṭasatāni = sakaṭa + satāni 百の荷車
catusatāni 四百
dvisatasahassāni = dvi + sata + sahassāni 二十万

abyayibhāva (副詞的複合語)

549. abyayibhāva (副詞的複合語)。

注意 (a) この複合語の始めの要素は、不変化詞 (529) です。

注意 (b) abyayibhāva は、一般的に単数対格形 -ṁ になり、 屈折しません。

注意 (c) 最後の要素の末尾の母音が長い ā のときは、 その āaṁ に変わります。他の長い母音のときは、 短くなります。

(i)

upagaṅgaṁ = upa + gaṅgāyaṁ (処格) ガンジス川の近くで
upanagaraṁ = upa + nagare (処格) 街の近くで
upagu = upa + gunnaṁ (複数) 牛の近くで
anurathaṁ = anu + rathe 馬車の後ろで
yāvajīvaṁ = yāva + jīvā (奪格) 命の続く限り
antopāsādaṁ = anto + pāsādassa 王宮の中で
anuvassaṁ = anu + vassaṁ 毎年
anugharaṁ = anu + gharaṁ 全ての家で
yathābalaṁ = yathā + balena (自分の) 力に従って
paṭivātaṁ = paṭi + vātaṁ (対格) 風に逆らって
tiropabbataṁ = pabbatassa tiro 山を越えて
uparipabbataṁ = pabbatassa + upari 山の上で
paṭisotaṁ = sotassa + paṭilomaṁ 流れに逆らって
adhogaṅgaṁ = gaṅgāya + adho ガンジス川の底に
upavadhu = upa + vadhū 嫁のそばで
adhikumāri = adhi + kumāri 若い女の子

(ii) 格語尾がそのまま残ることも時々あります。 残る格語尾は、たいてい奪格か処格です。 ただし、ほとんどの場合は、同じ複合語が中性の語形になることもできます。 奪格の格語尾が残ることができるのは、始めの不変化詞が pari, apa, ā, bahi, yāva などのときです。

yāvajīvā または yāvajīvaṁ 命の続く限り
apapabbatā または apapabbataṁ 山から離れて
bahigāmā または bahigāmaṁ 村の外で
ābhavaggā または ābhavaggaṁ 存在の最高のありようで
purāruṇā または purāruṇaṁ (=aruṇamhā pure) 夜明け前に
pacchābhattā または pacchābhattaṁ 食事後に
tiropabbatā, tiropabbate (処格), tiropabbataṁ 山を越えて、山の向こう側に
anto avīcimhi (処格) 地獄の中で
anutīre 岸に沿って
antaravīthiyaṁ (処格) 道の中で
bahisāṇiyaṁ (処格) 幕の外で

bahubbīhi (関係詞節的複合語・修飾語的複合語)

550. bahubbīhi (関係詞節的複合語・修飾語的複合語)。

注意 (a) bahubbīhi 複合語は、要素を分解したとき、 その完全な意味を言い表すために「(英語)who, which」のような 関係代名詞を補わなければいけないものです。 ですから、bahubbīhi は関係詞節的に、つまり形容詞として使われます。 最後の要素の語形は、この複合語に修飾される名詞の三つの性に従って、変化します。 bahubbīhi は関係詞節で置き換えることができます。

注意 (b) 今までの複合語 (dvanda, tappurisa, kammadhāraya, digu, abyayibhāva) の いずれもが、形容詞として使われるとき、bahubbīhi 複合語になります。

注意 (c) bahubbīhi が形容詞として使われ、名詞を修飾するときは、 性・数・格がその名詞と一致しなくてはいけません。

注意 (d) ですから、bahubbīhi は呼格以外のいずれの格にもなりえます。

以下に、bahubbīhi の種類を挙げていきます。

(1) pathamā-bahubbīhi: 補うべき関係詞が、主格になるもの。 「~(被修飾語) は …(bahubbīhi)」と言い換えられます。

chinnahattho puriso = 手を切られた男 (その男 は (主格) 手を切られている)
この例では、chinnahattho が名詞 puriso を修飾する bahubbīhi です。
lohitamakkhitaṁ mukhaṁ = lohitena makkhitaṁ mukhaṁ 血で穢れた口 (その口 血で穢れている)
lohitamakkhitaṁbahubbīhi です。
susajjitaṁ puraṁ 綺麗に飾られた都市 (その都市 綺麗に飾られている)
susajjitaṁbahubbīhi です。

(2) dutiyā-bahubbīhi: 補うべき関係詞が、対格になるもの。 「~(被修飾語) を、へ …(bahubbīhi)」と言い換えられます。

āgatasamaṇo saṅghārāmo = imaṁ saṅghārāmaṁ samaṇo āgato 沙門のやってきた寺 (その寺 へ (対格) 沙門がやってきた)
āgatasamaṇobahubbīhi です。
ārūḷhanaro rukkho = so naro imaṁ rukkhaṁ ārūḷho 男が登った木 (その木 男が登った)
ārūḷhanarobahubbīhi です。

(3) tatiyā-bahubbīhi: 補うべき関係詞が、具格になるもの。 「~(被修飾語) によって …(bahubbīhi)」と言い換えられます。

jitindriyo samaṇo = yena jitāni indriyāni so samaṇo 五感を制圧した沙門 (沙門 によって (具格) 五感は制圧された)
jitindriyobahubbīhi です。
vijitamāro bhagavā = so bhagavā yena māro vijito 悪魔を克服した尊者 (尊者 によって 悪魔は克服された)
vijitamārobahubbīhi です。

(4) catutthī-bahubbīhi: 補うべき関係詞が、与格になるもの。 「~(被修飾語) のために …(bahubbīhi)」と言い換えられます。

dinnasuṅko puriso = yassa suṅko dinno so puriso 税が与えられる男 (男 に (与格) 税が与えられる)
dinnasuṅkobahubbīhi です。
upanītabhojano samaṇo = so samaṇo yassa bhojanaṁ upanītaṁ 食べ物を与えられた沙門 (沙門 食べ物が与えられる)
upanītabhojanobahubbīhi です。

(5) pañcamī-bahubbīhi: 補うべき関係詞が、奪格になるもの。 「~(被修飾語) から …(bahubbīhi)」と言い換えられます。

niggatajano gāmo = asmā gāmasmā janā niggatā 人々が出て行った村 (村 から (奪格) 人々は出て行った)
niggatajanobahubbīhi です。
apagatakāḷakaṁ vatthaṁ = idaṁ vatthaṁ yasmā kāḷakā apagatā 黒の出て行った (=染みのない) 服 (服 から 黒が出て行った)
apagatakāḷakaṁbahubbīhi です。

(6) chaṭṭhī-bahubbīhi: 補うべき関係詞が、属格になるもの。 「~(被修飾語) の …(bahubbīhi)」と言い換えられます。

chinnahattho puriso = so puriso yassa hattho chinno 手を切られた男 (男 の (属格) 手が切られた)
chinnahatthobahubbīhi です。
visuddhasīlo jano = so jano yassa sīlaṁ visuddhaṁ 行いが清浄な人 (人 行いが清浄だ)
visuddhasīlobahubbīhi です。

(7) sattamā-bahubbīhi: 補うべき関係詞が、処格になるもの。 「~(被修飾語) において …(bahubbīhi)」と言い換えられます。

sampannasasso janapado = yasmiṁ janapade sassāni sampannāni 穀物の豊穣な地域 (地域 で (処格) 穀物がよく実る)
sampannasassobahubbīhi です。
bahujano gāmo = yasmiṁ gāme bahū janā honti 人の多い村 (村 人が多い)
bahujanobahubbīhi です。

注意 (e) bahubbīhi に修飾される語は、しばしば言い表されず、暗黙のものになります。

dinnasuṅko (4) 税を受け取る (人)、徴税人
jitindriyo (3) 五感を制圧した (人)
lohitamakkhito (1) 血にまみれた (人)
sattāhaparinibbuto (satta + aha + p-) 七日前に死んだ (人)
somanasso 喜びに満ちた (人)
chinnahattho (6) 手を切り落とされた (人)
māsajāto 生後一か月の (人) (直訳: 一か月前に生まれた)
vijitamāro (3) 悪魔に勝った (人)、仏陀

注意 (f) bahubbīhi の中には、修飾語の位置が始めでも後ろでもかまわず、 どちらでも意味が変わらないものがあります。

hatthachinno または chinnahattho
jātamāso または māsajāto

注意 (g) ī, ū で終わる女性名詞と、語幹が -tu (= -tā, (163) satthā の曲用) の名詞は、 bahubbīhi の最後の要素になるときは、接尾辞 ka を採るのが一般的です。 その場合、所有の意味が暗示されます。

bahukattuko deso 職人の多い場所 (その場所は多くの職人を所有している)
bahukumārikaṁ kulaṁ 娘の多い家族
bahunadiko janapado 川の多い田舎

注意: 長い īka が付くと、ī は短くなります。 ū もそうです。

注意 (h) 女性名詞が bahubbīhi の最後の要素になる場合、 その複合語が男性名詞を修飾するときは、その最後の女性名詞は男性形になります。 また、複合語の始めの要素は、女性であろうと、女性の指標を失います。

dīghā jaṅghā (長い脚)、dīghajaṅghā itthī (脚の長い女) ⇔ dīghajaṅgho puriso (脚の長い男)

注意 (i) 形容詞 mahā が、bahubbīhi の始めの要素として使われることがあります。

mahāpañño 大きな知恵のある。

注意 (j) dhanu (弓), dhamma (法), 他少数の語が bahubbīhi の最後の要素になるとき、 ā が付加されることが時々あります。

gaṇḍīvadhanugaṇḍīvadhanvā (27,ii) アルジュナ、強い弓を持つ英雄
paccakkhadhammā (paccakkhadhammo のこともあります) 法を明らかに知る人

551. 上に挙げた bahubbīhi の例は、すべて digu, tappurisa, kammadhāraya, dvanda, abyayibhāva が関係詞節的に用いられたものだということに、気づかれたことでしょう。 このことがもっと明確になるように、以下に少しだけ例を挙げます。

dvanda が関係詞節的に使われる例

nahātānulitto 入浴して油を塗った(人)
kusalākusalāni kammāni 良い行いと悪い行い

tappurisa が関係詞節的に使われる例

buddhabhāsito dhammo 仏陀が語った法 (= buddhena bhāsito dhammo)
sotukāmo jano 聞きたがっている人
nagaraniggato 街から出た(人)

kammadhāraya が関係詞節的に使われる例

guṇadhano 美徳という富のある(人)
sugandho 良い香りのする(もの)
khañjakhujjo puriso びっこで腰の曲がった男

digu が関係詞節的に使われる例

dvimūlo rukkho 根の二つある木
pañcasatāni sakaṭāni 五百の荷車
sahassaraṁsi 千の光線をもつもの、太陽

abyayibhāva が関係詞節的に使われる例

saphala = saha phala 実り多いもの
savāhano māro 荷物運び(の動物)を引き連れた悪魔
niraparādho bodhisatto 罪なき菩提薩捶

upapada 複合語

552. dutiyā tappurisa 複合語 (対格の tappurisa) の後ろの要素が kita 名詞 (= 一次派生語、第十三章「一次・二次派生」を参照) であって、 始めの要素が対格の関係にあるとき、この複合語を upapada と言います。 ですから、この種の複合語は、upapada とか upapadatappurisa とか 単に tappurisa とかと呼ばれます (niruttidīpanī)。

atthakāmo = atthaṁ kāmo ~の繁栄を願っている (kāmokita 派生語)
kumbhakāro = kumbhaṁ kāro 壺を作る人、陶工 (kārokita 派生語)
pattagāho = pattaṁ gāho 鉢を受け取る人
rathakāro = rathaṁ kāro 馬車を作る人、車大工
brahmacārī = brahmaṁ cārī 高尚な生活を送る人
dhammaññū = dhammaṁ ñū 法を知っている人

不規則な複合語

553. 作り方が非常に不規則な複合語も少数見られます。 この種の複合語は、普通は複合しない単語同士がくっついてできます。 これらの複合語は、おそらく非常に初期にできたもので、 パーリ語で最も古いものの中に数えられると考えられます。 いくつか例を挙げます。

vitatho = vi + tathā 本当でない、虚偽の
yathātatho = yathā + tathā 真実であること、本当の
itihā = iti (そういう) + ha (延ばされて hā, 「実際」) こういうことだ (導入、説明)
itihāsa = iti + ha + āsa (だった) こういうことだった (= itihā)
itihītihā = itiha + itihā (= itihā, itihāsa)
itivuttaṁ = iti + vuttaṁ (vatti 「言う」の受動完了分詞) このように言われた、仏教経典の一つ
itivuttaka = iti + vuttaṁ + ka (接尾辞) (= itivutta)
aññamaññaṁ = aññaṁ + aññaṁ 互いに
paramparo = paraṁ + para 連続の
ahamahamikā = ahaṁ (私) + ahaṁ + ika (接尾辞) エゴイズム、高慢

複雑な複合語

554. すでに説明したように、複合語自身が、他の複合語の始めや後ろの要素となれます。 また、二つの複合語がくっついて新しい複合語になれます。 そして、こうしてできた新しい複合語が、また別の複合語の要素となり、…… というふうに、ほぼいくらでも長くなり、入れ子構造の複合語ができます。 これらの複合語は、たいていは関係詞節的に、bahubbīhi として使われます。 初期のパーリ語では、このような複雑な複合語が使われることは少なく、 時代が下れば下るほど、増えてくるということを頭に留めてください。 ですから、長い複合語はパーリ語の崩壊の指標です。また、テキストの 古さを比べるときの、ある程度の手がかりとなります。

varaṇarukkhamūle (varaṇa の木の根元で) は、varaṇarukkhassa mūle と分解できる tappurisa 複合語 (属格の関係) です。 この varaṇarukkhassa は、さらに varaṇa eva rukkha と分解できる kammadhāraya です。ですから、varaṇarukkhamūle は、 kammadhāraya を始めの要素とする tappurisa 複合語、と言えます。

maraṇabhayatajjito (死の恐怖を恐れる人) は、暗黙の名詞を修飾する bahubbīhi です。 これは、maraṇabhayena tajjito と分解できる tappurisa (具格の関係) です。 maraṇabhayena は、さらに maraṇā bhaya と分解できる tappurisa (奪格の関係) です。

sīhalaṭṭhakathāparivattanaṁ (シンハラ注釈書の翻訳) は、 まず sīhalaṭṭhakathāya parivattanaṁ と分解できる tappurisa です。 次に、sīhalaṭṭhakathāyasīhalāya aṭṭhakathā (シンハラの注釈書) と分解できる tappurisa です。

aparimitakālasañcitapuññabalanibbattāya (測り知れない時間のうちに貯められた功徳の力によって生み出された) は、全体としては女性具格の bahubbīhi です。これを分解すると:

aparimitakālasañcitapuññabala (tappurisa) + nibbattāya
aparimitakālasañcitapuñña (kammadhāraya) + bala
aparimitakālasañcita (kammadhāraya) + puñña
aparimitakāla (kammadhāraya) + sañcita
aparimita (kammadhāraya) + kāla
a + parimita

複合しない状態では、以下のようになります:

aparimite kāle sañcitassa puññassa balena nibbattāya

注意: 学習者が複合語を分解するときは、上の方法に従うべきです。

複合語の中での単語の変化

555. 複合語中で、末尾の母音が変わる単語があります。 もちろん、その単語が bahubbīhi の最後の要素であるときは、 修飾先の名詞の性に合わせて、三つの性の語尾を持ちます。よく出てくるものを以下に挙げます。

go (牛) → gu, gavo, gavaṁ:

pañcagu 五つの牛と交換した (pañcahi gohi kīto)。 rājagavo 王の牛 (rañño go)。 dāragavaṁ 妻と牛 (dāro ca go)、 dasagavaṁ (十の牛)

bhūmi (場所、状態、段階、程度、階層) → bhūma:

jātibhūmaṁ 生まれた場所 (jātiyā bhūmi)。 dvibhūmaṁ 二つの段階 (dvi bhūmiyo)。 dvibhūmo 二階建ての。 ka がさらに付加されることもあります: dvibhūmako = dvibhūmo

nadī (川) → nada:

pañcanadaṁ 五つの川。 pañcanado 五つの川がある(ところ)。

aṅguli (指) → aṅgula: (548,a を見てください)

ratti (夜) → ratta: (548,a) ここにももう少し例を挙げます。

dīgharattaṁ 長い間 (直訳: 長い (いくつもの) 夜 = dīghā rattiyo)。 ahorattaṁ 昼夜 (aho ratti)。 aḍḍharatto 真夜中 (rattiyā aḍḍhaṁ 夜の中央)

akkhi (目) → akkha:

visālakko 目の大きい (visālāni akkhīni yassa honti)。 virūpakkho 醜い目をした、竜族の首長の名 (virūpāni akkhīni yassa)。 sahassakkho 千の目を持つ (sakka (神々の長) の名前) (akkhīni sahassāni yassa)。 parokkhaṁ 不可視の (直訳: 目を越えた) (akkhīnaṁ tirobhāgo)。

sakhā (男性「友」) → sakho:

vāyusakho 風の友、火 (vāyuno sakhā so)。 sabbasakho みんなの友 (sabbesaṁ sakhā)。

attā (自身) → atta:

pahitatto 自身を傾倒させた、意志の固い (pahito pesito attā yena)。 ṭhitatto 固く心に決めた (ṭhito attā yassa)

pumā (男) → puṁ: (さらに通常の規則に従って、末尾の は続く子音と同化します)

pulliṅgaṁ 男性器 (puṁ + liṅgaṁ (特徴、指標))。 puṅkokilo (雄カッコウ)。

saha (~とともに) → (複合語の始めで) sa: その複合語の後ろに ka がさらに付加されることもあります。

sapicuka 綿の。 sapicukaṁ maṇḍalikaṁ 綿の玉。 sadevako 神々の世界と。 同じ意味で、saha がそのまま使われることもあります: sahodaka 水をたたえた (saha udaka)。

santa (良い、存在する) → (複合語の始めで) sa: (546,b)

sappurisa 善人。 sajjano 良い生まれの、高徳の (sa + jana (人))。

samāna (同じ、似ている、同等の) → (複合語の始めで) sa:

sajāti, sajātika 同じ種族の、同じ階級の (samānajāti)。 sajanapado 同じ地方の (samānajanapado)。 sanāmo 同じ名前の (samāno nāmo)。 sānābhi 同じへその、同腹の。

mahantamahā: (546,a)

jāyā (妻) → (pati (夫) の前で) jāni, jaṁ, tudaṁ*, jayaṁ:

jāyāpati, jayampati, jānipati, jampati, tudampati 夫婦。

*niruttidīpanī には、tudaṁ という語形について 興味深い註が載っています: “yathā ca sakkaṭaganthesudāro ca pati ca dampatīti” (権威ある書物によれば「妻と夫で『夫婦』」)。 そしてその下に “tatthatusaddo padapūraṇamatte yujjati” (ここで tu の音は詩の音数合わせのために付加されている)

動詞的複合語

556.kar (する)、√bhū (である)、またこの二つの派生語とともに、複合語を作る 名詞、形容詞がたくさんあります。複合語の作り方は、動詞接頭辞のときと非常によく似ています。

557. このように使われる名詞・形容詞の語幹は、末尾の a, iī に変わります。

daḷha 堅い → daḷhīkaroti 堅くする。daḷhīkaraṇaṁ 堅くすること
bahula 豊富な → bahulīkaroti 増やす、大きくする。bahulīkaraṇaṁ 増やすこと。bahulīkato 増えた
bhasma 灰 → bhasmībhavati 灰になる、bhasmībhūto 灰になった
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